book1

□心地
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目が、覚めた。
目蓋を開けると闇が広がる。
重い目蓋を閉じたくはなかった。
必至に目を開けた。
そこが闇でも、闇の方がマシな時もある。
そうしているうちに、ふわりと頬に触れる温もり。

「大丈夫か?」
「新八っつぁん…?」
「うなされてたぞ」

そう言って新八っつぁんは俺の頬を撫で、前髪を割って額に触れた。
そのまま前髪を掻き上げる。
俺がいつもしているように…。

「悪い夢でも見たか?」

暗がりの中、彼の顔はよく見えない。
でも同じ布団の中寄り添そう距離だ。
お互いの吐息が絡み合うくらい近い。
彼の呼吸が酷くはっきり感じられた。

珍しいな俺の方向いてる…起こしちゃったのかな俺…

「起こしちゃった?」
「いや、起きたの」
「同じじゃん」
「ちげーよ、俺も…嫌な夢見たから」

そう言って新八っつぁんは俺に触れていた手を俺の背中にまわした。
そしてトン…っと、互いの額がぶつかった。

「大丈夫か?平助」
「大丈夫だよ…」
「でもお前」

泣いてたぞ?

言葉と唇が濡れたのは同時だった。

「し、んぱっつぁん?まだ足りないの?俺今日はもう、腰が立たないけど…」
「平助、いっぺん俺の刀の錆にしてやろうか?」
「だ、だってさー新八っつぁんが」
「そんだけ元気なら大丈夫だろ?寝ろヨ。寝付くまで見ててあげるから」
「いや、俺ガキじゃないし…」
「おめーガキだろー?」

クスクス笑ってる新八っつぁんの声が、さっきの悪夢を消し去っていった。
暗闇に慣れた目は、俺が大好きな彼の顔を映し出す。
素肌に感じる温もりが温かだった。

「新八っつぁん…」
「ん?」
「新八っつぁん?」
「だから何だよ」
「新八っつぁん」
「平助?」
「手、繋いでもいい?」
「全くガキだなぁ」
「新八っつぁんだって…」

笑いながら新八っつぁんは俺の手に己の手を絡める。

「大丈夫だから、早く寝ろヨ」

触れあう肌が、肌から伝わる温もりが、
手の力強さが、優しい彼の声が。
いつも俺に眠りを誘う。
目蓋が重くなってくる。目蓋と共に意識も落ちていく。
そんな中感じたのは彼の声と

彼の
唇の柔らかさだった。




「おやすみ平助……」

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