Boys

□出かけようよ、おそろいの服で!
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誕生日と血液型は常識。
好きなお菓子、好きな作家、買ってる雑誌と得意な教科。


彼女の事なら全部知ってる自信があるわ。


【出かけようよ、おそろいの服で!】








店に入ると、BGMとして流れているアップテンポなトランスと、客を迎える店員の甲高い声が耳に入って来た。
どの店員も、目の周りをパンダよろしく真っ黒に染め上げて、その店の商品を着用している。まるでマネキンだわ、と強すぎる冷房に顔をしかめた。

にこやかに近寄って来る店員を笑顔で軽くあしらい、リナリーは店の奥、目当ての品物へ向かった。


「これ、こないだ入ったばっかの新作なんですよお」


目当ての商品は、店の奥のほの明るい橙の照明に照らされたパイプに行儀よく並べられていた。

そんなの知ってる。
知ってて、しかもこれが欲しくて来たのだから。

1人を追い払ったばかりなのに、別の店員がなれなれしく声を掛けて来た。その甘ったるい猫撫で声がどうしようもなく気に食わなくて、その、個性なんてかけらもない、他の店員と同じようなパンダ目に、露骨に困ったような作り笑いを向ける。
ごゆっくりご覧ください、というマニュアル通りの決まり文句を背中に受け、リナリーは目の前のそれを吟味し出した。

『新作ワンピは海デートにぴったり!甘小花×ゆるエロはうちらのとっておき!!』
華やかにポーズをとるモデル陣が着用していたワンピースは、細かな花がいっぱいにプリントされたオフホワイトに、ショッキングピンクのレースが映えるブラトップ型。これを見た時、純粋にかわいいと思った。元々正反対な趣向のこのブランドに気に入るものがあったのかと正直驚きもしたが、まああったものは仕方が無い。しかし、実際にこれを購入しようと思い立った理由は他にあった。


『あ』

『なぁに?神田』

『これ、可愛くない?』

『そうかな、私はあんまりそうとは思わないけど』

『ていうかこのブランド好きなんだよな』

『ふーん、そう』


以前、放課後に立ち寄ったファーストフード店で、雑誌を読みながら神田が言っていた。
古くからの幼馴染みである神田は小さい時からいつも一緒で、今でも同じ高校に通っている。決して弱音を吐かない気高い気品と、強く強く意思を持つ黒い瞳。何より隣に居る事の心地よさに、リナリーは憧れと共に友達以上の深い愛情を抱いていた。
そして2日後に神田と街へ行く約束を取り付けたリナリーは、その日の話の種になれば、と以前神田が言っていたこの店に、あのワンピースを買いに来たのだった。

羨まれたい訳じゃない。ただ、少しでも多く、大好きなあの人の笑顔が見たいだけだった。


「ありがとうございましたぁ〜」


入った時と同じ、甲高い猫撫で声を背中に受けて、リナリーは強過ぎる冷房とアップテンポなトランスを後にした。


■■■


待ち合わせ時間は午前11時。場所は、駅前のよく分からないモニュメントの前。

よく分からないって何だよ。分からないって…。

街に行くのは久し振りで、場所を間違えないか不安だったが、着いてみたら全くの杞憂だった。緑掛かった黒い巨大な鉄の板が幾重にも重なり交差し合って、何を表現したいのか本当によく分からない。

約束は午前11時。
只今午前10時半。


(「…早く着き過ぎた」)


携帯のサブディスプレイの時計を見ながら、神田は小さく舌打ちした。

露出が多い服装のせいか、やたらに人目を感じる。纏わりつく視線が鬱陶しくてまた盛大に舌打ち、視線を送る張本人を睨み付けてやった。ヒッ、と引きつった声を出してそいつはそそくさと逃げていった。全く根性の無い…。

未だ絡まる視線を同じように追い払い、ふぅ、と一息吐いて空を仰いだ。

空は快晴。
時間まであと20分。
今日のデートを提案したあのツインテールの幼馴染みの、自分を呼ぶ声を待った。


■■■


「次は、〇〇〇、〇〇〇〜。お降りの際は足元にご注意くださ〜い」


夏休みの、しかも通勤ラッシュを過ぎた時刻の電車はそんなに混み合っておらず、いつもの通学時よりも楽に目的地に到着する事が出来た。
いつもこの位の混み具合だと嬉しいんだけど、と苦笑しながら、ローズレッドのプレイヤーの電源を切る。
時間まであと10分。
階段を降りる、赤いリボンが付いたミュールが、楽しげに鳴った。







駅から出ると、容赦無い太陽熱と、蒸し暑い、島国特有の熱気が身体を包んだ。地面のコンクリートは太陽光を盛大に吸い込んで熱く、その居心地の悪さに意気消沈する。

同時に、鉄製のモニュメントの奥に見えた、恋い焦がれた人。
リナリーは刮目した。
約束の時間まであと10分。
まさかこの熱気の最中、ずっと待っていたというのか。
その人へと向う足が早まる。赤いリボンのミュールの高い足音が忙しなくて五月蠅い。


「神田、」


モニュメントを囲うアルミ製のパイプ(そのパイプのこれまた熱いこと!)に腰掛けていた神田は、降ろした長い髪をサラと靡かせて振り向いた。陶磁器のような肌にうっすらと汗が浮かんでいる。


「リナリー」

「ごめんね遅くなって、いつから待ってた?」


10時半くらいからかな、と立ち上がって笑う彼女の、全身のコーディネートを見て気付いた、ある事。始め見た時は深い藍のスキニーを穿いていた為に印象が違って分からなかったが、コバルトブルーのレースは違えどあの細かな子花柄は、今私が着ているものと同じだった。すらりとした体躯にそのワンピースは本当によく似合っていて、白い肌にコバルトブルーが良く映えた。

目の前の神田も気付いたらしく、私の、ショッキングピンクのレースをじっと見つめている。


「リナリー、そのワンピース…」

「同じ、だね…」


顔を上げた、その人の大好きな黒い瞳と目が合って思わず笑い出す。


「さ、行こうぜ」


差し出された神田の、儚くて細い手を取って歩き出す。

お揃いの黒い髪に、お揃いのワンピース。
『双子みたい』と笑う貴女に、わたしの心がドキン、と跳ねた。









出かけようよ、おそろいの服で!
(空は快晴、気分は上場!)
(風がふたりの髪を揺らした)









素敵フェスさまに投稿!
初めてお題で書いた〜\^^/


■O8O814/悠夜■

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