短編

□檸檬飴を一粒
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本の文字を目で辿っていると、不意にこめかみに何かが当たった。
顔を上げればあいつの姿と、あいつが持っている「激安!お買得!!」と大きく書かれた袋。
そして、床に落ちている透明のセロファンに包まれた一粒の飴が視界に入った。恐らくあいつが袋に入っていた飴を投げつけたんだろう。
当たり前だが、それほど痛くはない。

「いきなり何をする」
「暇だ」
「知るか」

想像はしていたが、自分とは全く関係ないことだったらしい。第一僕に言われても仕方がない。

再び、本の文字に視界を落とす。
そして、また同じ場所に何か――安易に予想できたのが少し悔しい――が当たった。
相手にしてても仕方が無いので今度は何回も当ててきても無視する。
すると、急に攻撃の嵐は止まった。

「……そんなヤケになって無視しなくても」
「それはこっちの台詞だ」
「ふーむ、それも一理あるのう」

いつの時代の人だ。
いよいよ言動全てに対してイラついてきた。どれだけ暇なんだ、こいつは。

「――…リオンー?」
「なん……っ」

口を開けた瞬間、口内に甘い味が広がる。

「レモン味。ラッキーだね?」
「何がラッキーだ!」

床を見れば飴がなくなってた。
そういえば先程の飴は半透明な黄色だった気もする。
……なんだ、投げつけたのを食べさせたのか。セロファンで包んであったからまだマシだが。

「ちなみに、これ最後の一粒」
「知るか」

わざわざ袋を摘んで開けた口を下に向ける。
確かに何も落ちてはこなかった。

「いいか、ここはどこかわかってるのか?」
「ダリルシェイド」
「そういう意味じゃない。ここは誰の部屋だ」
「知らないね」

ナメてるだろ、こいつ。

「いいか、無い脳に叩き込め。ここは僕の部屋だ」
「ふんふん、それで?」
「そして僕は読書中。お前は邪魔してくる」
「ふんふん、それで?」
「出てけ!」
「ほいほーい」

なんとも呆気なく、部屋の扉を開けようとして止まった。

「リオン、飴美味しかった?」
「知らん」
「ちぇ、つまんない」

言葉のわりには何故か満面の笑みで扉を閉めた。
口の中にはもう小さくなってしまったレモン味の飴玉、そしてその甘い香りが残っていた。




檸檬飴を一粒
(甘い、日常)
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