文豪ストレイドッグス
□届かぬ声
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昼の時間なのにも関わらず薄暗い路地裏。
そこには二人の青年が鉢合わせていた。
「…芥川くん」
「…太宰さん」
この路地裏で出会ったのは本当に偶然だった。
芥川は次の仕事の合流地点に行く途中だったし、太宰はこの辺りで不審物が発見されたということでその物体を探していたところだった。
一体どれほどの時間が流れただろうか。
お互いの名を呼んだきり流れる沈黙を破ったのは二人ではない第三者だった。
「龍、そんなところで何をしているの、置いていくよ?」
「桜さん」「…桜」
黒いシャツに黒いズボン。そして身の丈に合っていない長い男物のベージュのコート。
そのコートは太宰には見覚えがありすぎる物だった。
芥川と太宰の二人が彼女の名前を呼ぶ。
そこで桜は見えていなかっただろう人物の存在に気が付き、表情を歪ませた。
「…そう、太宰さんがいたの。…でも私たちにはこれから仕事があるんだからこんな所で時間潰してちゃダメだよ」
「…はい」
注意をされた芥川は叱られた子供のように顔を俯かせた。
そんな芥川に近づき、彼の頭を桜はそっと撫でる。
しかし、
「っ桜!」
反対の手が太宰に掴まれる。
その掴まれた腕を無表情で見た桜はそっと芥川から手を離し、その背をポンと押し出した。