その他
□腹痛 ヴィンス
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ヴィンセントが神羅屋敷に帰って来て玄関を開けた瞬間に疑問に首を傾げた。
いつもなら帰って来てすぐに10周年ありがとう!が姿を見せるはずだった。
しかし、今は屋敷の中から物音ひとつしない。
軋む廊下を歩いて行けば、寝室のソファーで横になり丸くなる10周年ありがとう!の姿。
「…10周年ありがとう!?」
声をかければその影はもぞりと身じろいだ。
様子がおかしい気がする。
そっと近づけば彼女の瞳がわずかに震え、ゆっくりと開かれた。
その瞳にヴィンセントが映し出される。
「…ヴィ、ン?」
か細い声が彼を呼んだ。
ヴィンセントはそっと彼女のそばへ膝を折る。
そっと頬に触れればいつもよりも冷たく、汗でしっとりと濡れていた。
「…どうした」
「…ん、ちょっと…おなか、痛くて…」
言われてみれば確かに腹部を庇う様に丸まっている。
「…待っていろ」
ヴィンセントは自分のマントを10周年ありがとう!にかけ部屋を後にした。
10周年ありがとう!はヴィンセントのマントを体に巻き付けて体を起こす。
ヴィンセントのマントは彼のぬくもりが残っているおかげかとても暖かく、冷えた体を包み込みまるで守られているような感覚を与えてくれた。
そっとヴィンセントのマントを握りしめていると、ヴィンセント独特の足音が聞こえてきた。
彼は普段足音をたてない。
しかし、10周年ありがとう!といるときだけは彼はこうして存在を示すように足音をたてる。
戻ってきたヴィンセントは1つのマグカップを差し出した。
10周年ありがとう!が受け取ったカップの中身は甘い香りをしていた。
「…ココア?」
「…甘いものは好きだろう」
腹痛を起こす10周年ありがとう!のためにココアを入れてくれたらしい。
「…ありがとう」
ヴィンセントはそっと身を寄せて隣に座ってくれた。
そんなヴィンセントの肩に寄りかかるように身を預ける。
そっと肩に回される彼の腕に10周年ありがとう!はそっと微笑んだ。
不器用でも、気遣ってくれているのが分かる彼が、好きなんだとまた改めて思わされた。