その他

□腹痛 ヴィンス
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いつも通り外での仕事を終えてパソコンで書類を作成していた。
しかし、こめかみに走る痛みにそっと頭を押さえた。


「……どうした?」


隣の席に座っていたルード先輩が声を掛けてくれた。
スキンヘッドにサングラスをかけている彼は一見近寄りがたく見えるけれど話してみるととても優しい人であることが分かる。
そんな彼の優しさに小さく笑ってしまった。


「はい、ちょっと頭痛がするだけなので」
「最近仕事のしすぎだろう」
「…そんなつもりなかったんですけどね」


先輩の心配気な言葉にそう返せば彼のサングラスの下の表情が曇ったのがなんとなくだけれどわかった。


――コツン


「いたっ」


突然背後から降ってきた衝撃に思わず頭頂部を抑え、振り返った。
そこに立っていたのはルード先輩と同じく先輩の1人。
赤髪の彼はニヤリと不敵に笑った。


「自分の体調管理もタークスの仕事の1つだぞ、と」


そう言った彼は私の手の上にそっと暖かい何かを置いてデスクへと戻っていった。
私はそれを落とさないようにそっと頭から手を離した。
手に持ったそれは缶のココアだった。
暖かいそれを私は両手で握りしめた。
暖かいそれを握っていれば体の力がすっと抜けていく気がした。
思った以上に体は強張っていたらしい。
しばらくそのままじっとココアの温もりを感じていると、ふと視線を感じて俯かせていた顔を上げれば真正面にいるレノ先輩の視線だった。
また何か言われるかと身構えればレノ先輩はいつもの不敵な笑みではなく、私に優しく微笑んだ。
唖然としていれば先輩はそっと口を開いた。
その口から音が発されることはなかったけれど、その口元が示した言葉に私は思わずまた顔を俯かせた。
だって、先輩にこんな顔を見られたくないから。
私の顔は間違いなく熱を持って赤くなっていた。


『あんま無理してくれるなよ、10周年ありがとう!』
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