その他

□腹痛 ヴィンス
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「おい、大丈夫か?」
「…ノクト」


今日はもちろん学校だった。
しかし、朝から体調を崩していた私は学校を休んで家で寝込んでいた。
しかも、よりによって今日は両親ともに仕事で隣国へと出かけているのだから災難だ。
そんな私を見かねてか学校帰りにノクトが様子を見に来てくれたらしい。


「何か食いもん食ったか?」
「んーん」
「ならちょうどよかったな。イグニスが持ってってやれって俺に食いもん渡してったからこれ食えよ」


そう言ってノクトが差し出してくれたのは紙袋。
どうやらこれをイグニスに渡されたらしい。
その袋の中身を見ようと状態を起こせばふらつく体。


「っと、フラフラじゃねーか。ってか、あっちぃな、熱は?」
「…38.6」
「かなり高いな…飯食って薬飲んでとっとと寝た方がいいか」


そう言ってノクトはそっと私の背後に回り体全体で後ろから抱きかかえるように支えてくれた。


「ノ、ノクトっ、風邪うつっちゃう…」
「へーきへーき。そんな体弱くねぇよ」
「でも、」
「それよりさっさと食えよ。まだ冷めてねぇはずだから」


確かにノクトから渡された紙袋のそこはじんわりと暖かい。
これなら温める必要もないだろう。
そのあたりはきっとイグニスが配慮してくれたのだろう。
さらにありがたいことに紙袋を開ければそこにはスプーンまで入っていた。
気遣いのレベルが高すぎていっそお母さんと呼びたい…。
容器のふたを開ければそこにいは我が家では見慣れた病人食。


「わ、すごい…イグニスお粥も作れたんだ…」
「…へぇ、変わってんな。これなんで出来てんの?」
「これはお米だよ。お湯でお米をぐずぐずに煮て軽く味付けして食べるの。イグニスは卵入れて卵粥にしてくれたみたい」
「へぇ、ライスねぇ。そういや10周年ありがとう!の母さんの出身そっちだったっけか」
「うん、だから家でもお米食べること多いから…イグニスも気を使ってくれたんだろうね」


ルシスでもお米はどこでも売っている物ではないのにわざわざ買ってくれたんだろう。
その気遣いが怠い体に染みるようだ。
そっとスプーンですくって口の中へ。
少し冷めているけれど逆にちょうどいい温度だ。


「ん、おいしい」
「そりゃよかったな」
「後で自分でも伝えるけどイグニスにお礼言っておいてもらえる?」
「へーへー」


母がいないから食事をどうしようかと考えていたけれどイグニスのおかげで風邪の時によく母が作ってくれるお粥を食べられてよかった。
そして何よりイグニスの料理はおいしい。
久しぶりに食べられたイグニスの料理に胃も心も温かくなる。
もくもくと食べ進めていればふと感じた視線に振り返る。
すると、やはりノクトが私を見つめているわけで。


「どうしたの?」
「いや、10周年ありがとう!って飯食ってる姿小動物みたいだよな」
「…小動物?それは、喜んでいいのかな?」
「いんじゃねーの?俺は可愛いと思ってるんだから」
「かわっ!?」


この王子様はさらりと飛んでもないことを言ってくださる。
普段そんなことを言われ慣れていないわたしはまあ、恥ずかしいわけで…。
ノクトへ向けていた視線を落としてお粥を食べ進める。
ちょうど食べきれるサイズだったそれを食べ終えればそれはサッとノクトに取られた。


「あ、それ…」
「イグニスが洗わなくていいからそのまま持ち帰れだと。10周年ありがとう!は治ってもないのに洗い物とかしそうだからって」
「うっ…」


さすがイグニス…ばれてる。
その器はそのまま紙袋へと戻されていった。


「んで、風邪薬もイグニスから渡されてる、ほら」


渡されたのは市販の風邪薬だった。
水を取りに行かなきゃと思えば、ノクトは自分の鞄の中をごそごそとあさり中から一本のペットボトルを取り出した。
その封を切って私に渡してくれる。
どうやら未開封のものらしい。
ちらりと見れば鞄の中から除く白い袋。
これは明らかにイグニスから渡されたものではないらしい。
もしかして…。


「んだよ?」
「…ううん、なんでもない」


帰りに買ってきてくれたんだろうか。
ノクト、自ら…。
渡された水で風邪薬を飲み込む。
ただ食べて飲んだだけなのにやけに疲れた気がする。
ぐったりとしているとそっとノクトに体を横たえられた。


「さっさと寝ろよ」


そう言って背を向けるノクトの制服のすそをそっと握る。


「あ?」


振り返ったノクトに慌てて手を離す。


「…ちょっと、ちょっとだけでいいからまだ、ここに…いてくれる?」
「…ああ、いいぜ」


そう言ったノクトは床に座り込むと私の手をそっと握ってくれた。


「寝るまで傍にいてやるから」
「…ありがとう」


手に触れる温もりにどんどんまどろんでいく。
眠りに落ちる寸前、優しい声が聞こえた。


「…早く良くなれよ、10周年ありがとう!。待ってっからよ」
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