その他
□腹痛 ヴィンス
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クラウドが配達を終えて家へ戻れば、そこは何の音もない沈黙が家の中を漂っていた。
いつもならば10周年ありがとう!がなにかをしている生活音が聞こえてくるはずなのだが、今は何も聞こえない。
出かけているのだろうか、と中へ足を進める。
入ったリビングのソファには10周年ありがとう!の姿があった。
ソファに膝を抱え込むように座っている彼女の足元にはブランケットがかかっていた。
「(…珍しいな)」
いつも昼寝をするにしても何もかけずに寝ているからブランケットなどをかけるのはクラウドの仕事だ。
別にそれを苦だと思ったことはない。
逆にその仕事をする必要がないのだとすると少し物足りないというか寂しい気がする。
というのは置いておいて、まだ冬には少し早い季節に10周年ありがとう!が自らブランケットを掛けていることにクラウドは首を傾げた。
「10周年ありがとう!?どうかしたのか?」
10周年ありがとう!のすぐそばで膝をつき、その伏せられた顔を見上げる。
するとわずかに身じろぎした10周年ありがとう!がそっとその顔を上げた。
「…ん、おかえり、クラウド」
「…ああ、ただいま。風邪でもひいたのか?」
「…ううん、女の子の日でちょっとおなか痛いだけだから」
「女の子の日……あっ」
そういえばそんな言葉をティファに教えてもらったことがある。
月に一度ほど来るそれは人によっては腹痛などの症状が現れるという。
ティファが10周年ありがとう!は時々その痛みが酷いから気にかけろと言っていた。
そのことをふと思い出してクラウドはわずかに顔を伏せた。
「(…えっと、何をすればいいんだったか)」
対処法を教わっていたはずで、思考を巡らせる。
「(…あぁ)薬は飲んだのか?」
「…あ、うん。もう飲んだよ」
「後は…温めるんだったか?」
「え、クラウドよく知ってるね?」
「前にティファが10周年ありがとう!が酷い時があるから気遣えって色々教えてくれた」
「…なんというか、さすがティファだね」
僅かに笑みを浮かべる10周年ありがとう!に安心しながらクラウドは自らの手にはめていたグローブを取り去ると10周年ありがとう!の手にそっと触れた。
「…少し冷たいな」
「うん、なんかなかなか体温が上がらなくて」
困ったように俯く10周年ありがとう!の姿がとても弱弱しくてクラウドはその手でそっと10周年ありがとう!の頬を撫でた。
10周年ありがとう!はその手にすり寄るように触れるとそっと微笑んだ。
「クラウド温かいね」
その言葉に少し動きを止めたクラウドは防具を近くのローテーブルに置くとそっと10周年ありがとう!の隣に腰を下ろし、両手で10周年ありがとう!の体をすくい上げた。
「わっ!クラウド!?」
「これでちょっとは温かいだろ?」
「いや、温かいけど…」
持ち上げた10周年ありがとう!の体を自らの膝の上に乗せ、ブランケットの上から抱きしめる。
ブランケット越しに10周年ありがとう!の体温がじんわりと滲んてくるのがとても心地よかった。
それはもちろんクラウドだけではなく、10周年ありがとう!も同じだった。
「…重くない?」
「10周年ありがとう!前に抱えた時もそれ、聞いてきたよな」
「…だって、私ティファみたいに軽くないよ」
「10周年ありがとう!だって軽いよ。それにこれでも俺は男だから」
「……うん、頼りになる男の子、だもんね」
「…頼りになるかは、わからない、けど」
「…頼りにしてるんです」
「…そうか」
そっと体を預けてくれる10周年ありがとう!の頭をそっと撫でる。
「つらい時はいつでも言ってくれ。俺にできることなら、なんでも10周年ありがとう!にしてあげたいから」
「…じゃあ、甘えさせてもらいます」
「ああ」
少しでも早く、10周年ありがとう!の痛みがなくなればいい。