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01 ただ、走る。 (他)


血なのか土なのかもう分からない。
とにかく、がむしゃらに走る。
勢いよく戟振って、敵陣を駆け抜ける。

(もう、刃こぼれしてやがるっ・・・クソ!)

結局凌統は武器をぶん投げてしまった。
その代わりに懐から節棍を取り出し、振り回す。
走るぶんにはこちらの方が身軽だが、いかんせんリーチがない。
凌統はもう、死に物狂いだった。

(まさか、奇襲にあうなんてね・・・!俺の、軍は平気なのか?)

周りは敵兵、敵兵。
どうすりゃいいってんだ、と思いながらも走って抜けるしかなく。
血まみれになって走った凌統は、一気に視界が開けたことに気付いた。

そして、その先には。

「よう、公績!生きてっかーぁ」

間延びしたその声に帰り血のついた体はちっとも似合っていなかった。
血塗れた鈴はそれでも健気にりん、と鳴って、敵兵をびびらせる。
そして凌統はその音に、存在に、ひどく安心した。

「ナマ言ってんじゃないっつーの!これくらいで死ねるかよ、興覇!」
「たしかに元気そうだなぁ!とにかく、」

援軍、甘寧はぎろりとその辺の小兵を睨む。
兵達はびくりと竦みあがった。
それだけで甘寧はつまらなさそうにそれらから視線を外す。
続いてまた凌統に向かって声を張り上げて馬を近づけた。

「乗れよ!お前の副将が待機してる拠点まで戻ろうぜ」
「よかった、無事なんだ!そりゃありがとさん!」

敵兵が唖然とするなか、戦友は笑い合って結論付けた。
馬を常の速さと変わらず走らせて、甘寧は手を差し伸べる。
凌統は走りながらその手を取って馬に飛び乗った。
体重が倍増して、馬がいななく。

「じゃあなー。あんたらももう戻ったらどうだい」
「おいおい、公績、敵に情けかよ」
「違うよ、無駄死にはもったいないからさ」
「変わんねぇよバーカ」

笑い合う。
生臭い空気すら感じなくなった。
馬はただ、走る。
ふたりの男を乗せて。

ただ、走る。


【ただ、走る。】
息が切れようと、あなたに会うために
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