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15 それもまた一興

「碁やろう碁。ねえ甘寧、碁」
「何度も言うんじゃねえ・・・!」

つまり、うざい。
いや、それは元からか。
じゃあ鬱陶しい。
ああ、これだな。

武器による仇を止め、俺たち(てか凌統)は和解した。
ようやく夜すこやかに眠れると思っていた。
俺が甘かったんだなきっと。

凌統はそれから毎晩毎晩飽きずに碁盤を持ってやってくる。
好意的なのは結構なことだが人間負け続ければ嫌になるのも当然だろ?
そんなわけで俺はここ最近こいつから逃げ回っていた。
おっさんの邸に泊まったこともあれば城の仮部屋にこもったこともあれば遊郭で過ごしたこともある。

久々に帰った自室の前には、やはりと言うか何と言うか・・・凌統がいた。
回廊で騒いでもあれなので、とりあえず部屋には入れる。

「あのさ、お前いい加減うぜぇ。打ちてぇなら他あたれや」
「あんたを討たなくてどうすんだよ」
「意味合い違ぇだろ。とにかく帰れよ」

鬱陶しげに手を振るうが、凌統は帰る気配を見せない。
なんてやつだ。本当にそのしぶとさだけは認めるぜ。
ギロリと睨みつけてやると凌統はきょとんとした顔つき。

「やんないの?」
「やらねえよ。前から嫌だっつってんだろ」
「そっか」

ごめん、と寂しげに笑って見せた凌統。
なんでか分かんねえけど気になって、出て行こうとしたそいつの腕を引っつかんだ。
びっくりしたように目を丸くする凌統を見て、俺の方が焦る。
何引き止めてんだ俺?

「なんだい?やっぱやりたいっての?」
「違ぇよ。悪ぃ、トチ狂ったみてぇだ」

そう言ってぱっと手を離し、追い払うように手を振った。
だが凌統は完全にこちらに向きを戻す。じっと何も言わずに目を見つめてくる。
こいつが何考えてんだかさっぱり分からねぇから、俺も黙りこんじまった。

「甘寧、俺は・・・」

そう言って頬を両手で包まれたかと思うと、軽く口付けられた。
すぐに離れていく熱、んでもって意味の理解できねえ俺。

「俺が碁だけのために来てたと思ってんのかよ、馬鹿」
「は、あ?」
「・・・勝負だ甘寧、絶対落としてやる」

そう言って凌統はたかたか駆けていってしまった。
まずい、意味が分かんねえ。
けど、マジよく分かんねえけど。

これも勝負の一環、てことだろう。
俺を好きになった(ってことだと思う)凌統は、俺を全力で落とす。
俺は適当にあしらう、いつか俺があいつを好きになるまで。

「これもまた一興って奴ぁな」

早く、来いよ凌統。
俺を楽しませてみやがれ。


【それもまた一興】
わくわくさせるなら何でもよいの
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