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16 交換条件


つまりそれは交換条件ってやつだった。

“今度の対異民族戦、どっちが多く討てるか勝負だ”
“勝負?”
“もしてめぇが勝ったら、お前の事見てやるよ”

ださいけど、すげぇ嬉しいと思っちまった。
好きになってほしいわけじゃない。いや、そりゃなってくれりゃ最高かもしれないけどさ!
ただ、見てほしかったんだ。
他の奴らと同じ扱いじゃなく、凌公績として俺を。

好きになったきっかけなんてどうでもいいこと、覚えてない。
ただ俺はあいつをこれ以上なく憎んでいたにも拘らず、あいつは俺を助けた。幾度も。




「甘寧!」
「あ?」
「・・・・・・此度の恩、忘れません」
「は?お前、似合わねー!はは、ウケんな!」



多分あれが和解のきっかけだ。
父上がいつも仰っていた。
命を救われることは、なにを差し置いても最大級の感謝をしなければならない、ってね。
だから俺は恨みを流した。

だけど、その後の甘寧ときたらてんで淡白だったんだ。
通りがかっても「よう」くらいで、あとは特になにがあるわけじゃない。
俺はびっくりしたよ。
それまで、あいつが何度も絡んできたのは俺が甘寧を憎んでいたからなんだ。
つまり、他と同じようになってしまえばそれまで。

多分、俺が異常にあいつに執着しだしたのはそこからだ。
な?きっかけなんて、ほんとくだらないんだから。
覚えてないとか言ってすらすら言えちまうんだ、なんたってあいつとの思い出だからね。
この乱世、いつ死ぬか分からない。

俺は、素直になると決めたよ。


* * *


「は、ぁ・・・まだ、まだ・・・!」

生ぬるい戦場、俺はどろりと伝う汗を拭った。
一体何人討ったのか、あいまいだけど一応なんとなくは数えている。
本当は敵さんのなにか特徴になるものを集めるとか言っていたけど、きりがないし面倒だからってやめた。
どうせこんなもの嘘ついたってどうなるわけじゃないし、俺たちは個々で数えることにしたわけだ。

ところがそんな時、衝撃的な伝令が告げられた。
内容は、殿が奇襲にあった、ということ。

気付いたときにはもう、駆け出していた。
正義なんて暑苦しいモンはくそくらえって感じだけど、俺が殿をなによりも支えていきたいと願うのは拭えない事実だから。
行ったら、あいつとの交換条件なんかきっと守れないんだろうなと思った。
けど、殿ほど大切なもんないんだ。甘寧、あんたよりね。


「くっ・・・ここまでか」
「殿!!道は開きました!とりあえず後退して下さい!」
「公積!!・・・すまない!」

殿が精鋭の護衛をつれて駆け出すと同時に、俺の周りに敵兵が群がる。
ぶんぶんと節棍を振り回して、あとは挑発。


「さぁてと、楽しませてもらおうか」


敵に囲まれたときは、なりふり構っちゃいられないんだ。
殺すなんて面倒なことは俺の武器では手間がかかる。
戦意と戦力を潰せればそれでいいんだ。
俺は脚や腕を中心に狙って敵を潰していく。
殿の方へ行かせないように、部下にもうまく指示をして食い止める。


そうして暫くすると、勝ち鬩ぎが耳に届いた。
慌てて逃げていく敵兵。
俺は部下を称賛しながら、どうにか本陣幕舎まで戻る。


あーぁ、戦に勝っても勝負には負けちまったな、なんて思いながら。


* * *

幕舎に戻るとかすかに人の気配。
誰かな、とか思っていたら話しかけられた。

「凌統殿!」
「あぁ、陸遜。あんたもお疲れだね、こんなちっせえ戦に借り出されてさ」
「この陸伯言の才、使われるのならどこへでも行きますよ。それより・・・ずいぶん手負われていますね・・・」
「あぁ、ちょいとやられちまった。情けないにもほどがあるっつの」

「だが、お前は殿さんを守りきった」

「甘寧殿!」
「甘寧」

正直もうくたくたになっていて、視界なんてとうにぼやけていた。
それでも何故か、あんたの動向だけは分かるんだよな。
空気とか、なんとなく勘とかでさ。それって結構やばいでしょ?

「お前の勝ちだよ」
「、?」

甘寧は突然俺の頬に手をあて、そして・・・
目を、見ていた。両目の下の部分を軽く引っ張って。
俺も陸遜も唖然としている。て、ていうかよく見えないけど近いから!

「あ、あんた何して・・・」
「やっぱ、目ん玉動いてねぇな。おい陸遜、医者呼んでくれねぇか」
「え、えぇ。分かりました、今すぐに」

そう言って幕舎を出ていく陸遜。
それをなんとなくの方向で見ていたら、なんか抱きしめられた。
温かい、寝ちまいそうだ・・・・・

「寝ちまえ。交換条件、破ったりしねえよ」
「けど、俺、ほとんど撃破はしてねえぜ・・・」
「俺は、忠義って嫌いじゃねえんだわ。ほら、寝ちまえって」


甘寧があんまり穏やかにそう言うから、俺はついに眠りの世界へ放られた。
まどろみの瞬間、甘寧の落ち着いた笑みが見えたような気がして、なんて都合いいんだかと自嘲した。

なんかもう、どうでもいい。


【交換条件】
達成できなければ意味がないのに


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