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19 見せかけ握手


ギリギリっと骨が軋む音が、俺の耳にまで聞こえた。


俺を父の仇として恨む凌統は、どうやら俺と『和解』することを決めたらしい。
宴で凌統が恭しく拱手をしてその事実を殿さんに告げた。
殿はよほど嬉しかったのか、その袖を涙で濡らし、そして笑顔を浮かべた。
周りもだんだんとその事実が広まっていき、場は盛り上がる。

だが俺が気になるのは、凌統の野郎の表情だ。
殿に対し笑顔でいるが、どうも作りもんを貼り付けただけの表情にしか見えねぇ。
腕組みしつつ凌統を訝しんでいると、ふいに凌統と目が合った。
奴はそのまま、俺を手招きする。

特に何も言わずに俺はそいつの元に歩く。
片眉を上げると、凌統がにっこりと手を差し出してきた。

殿さんが、さらに笑顔を強める。

「これから先、我ら友に力を合わせ、孫呉のお力となろう」
「・・・おう」

すっと繋がる手。
冷たい体温に一瞬ビビって引っ込みそうになる。
それを止めたのは、凌統の手だった。
ぎり、と力が込められる。

目を合わせると、笑顔はそのままに薄笑いを浮かべていた。
その瞳の奥、本当の心を表しているであろう場所は・・・

「・・・殿のためだぜ」
「てめえ・・・」


真っ赤に、燃えているような気がした。



【見せかけ握手】
逃がさないと言っているの?
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