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21 雨が似合うと言われたい

空が泣いていた。
そんななか意味もなく雨に打たれる男がいる。
ざんざん無遠慮に降る雨を全部受け止めて突っ立ってるアホ。
手ぇ握り締めて長い下ろした髪から雨水滴らせて
まるで泣いてるみたいに、それでもじっと空を睨んで立ってる。
おいおい、そんなに空を憎んでどうすんだ。
その目はもう完全に空ってやつを忌み嫌ってるぜ。

「恨むなら俺を恨めばいいのに」

ぽつりと言うと振り返る。
あぁ凌統、お前ってほんとキレーな顔してるよな。
泣きそうな顔だってたまんねぇよ。

「あんた、濡れてる」
「お前に言われたかねぇな。冷え切ってんじゃねえか」
「うん、ねえ」
「ん?」

抱き込んでやって、できるだけ雨を当たらないようにした。
それなのに凌統は俺の腕をやんわりと外してまた空を見る。

「雨が似合うって言われたいよねえ」

強がりだと思った。
雨の降った夏口。
俺を恨んだお前。
雨を恨んだお前。
俺を愛しちまったお前。
雨を認められないお前。

必死に認めようとしているのか、と思った。
ぽたぽた凌統の頬を肌を伝う雨はそれは綺麗で
十分じゃねえか。なんて呟いちまった。
ぎこちなく笑った顔が、寂しいななんて下らねぇこと考えた。


「雨が似合うな、公績は」


戦友を呼んだ
心からの声で。


「そうかな。・・・ありがとさん」


それからしばらく、黙って涙玉(なみだま)を受け止めていた。


【雨が似合うと言われたい】
ひとつになれる気がするの
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