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24 夢を与えて

ユメってのは、よく分からない。
無理矢理持てばいいってもんでもないけど、あればそりゃ生きる糧ってのになるだろう。
かくいう俺もないわけでもない。

殿、つまりご君主である孫権さま率いるこの孫呉の天下統一をいつだって夢見てる。
それは父上のご意向でもあったし、ここまで権力を頂いちまったからには当然のこと。
っつうか権力とかなくても、俺はこの国の天下統一を思ってるわけですけど。

でも、たまになーんか違うんだよなぁって思っちまうわけ。
俺も貪欲な野郎だよね。


こうたまにだけどさ、なにもかも忘れてユメってやつを追いかけてみたいよね。


そんなくだらない事を考えながら歩いていた俺は、ばったりと甘寧に会った。
・・・ウソ。俺が、会いに行ったんだけどね。
いるだろうかと思って行った水軍の基地に、そいつはいたわけで。

「よう。お前から会いに来んのも珍しいなぁ」
「自惚れんなっつーの。たまたまだよ。それと届け物」
「たまたまねぇ・・・。で?届けものって?」

俺はあるものを懐から取り出し、甘寧に投げてやる。
片手で捕ったそれを見た瞬間、甘寧は笑顔になった。

「丁度切れてたんだよな!うわ、マジで嬉しいぜ!ありがとな凌統!なんで分かった?」
「なんでって。あんたこの前自分で言ってたぜ」
「そうだったか?つーかお前、閨言も覚えてんだな」

こんな堂々とした場所で閨、とか出されて俺は思わずもうひとつのものをぶん投げた。
頭に当たればいいのにと思ったのに、さすがにそれはなくて軽々捕られてしまう。
甘寧はそれを見てニヤリと笑い、それに口付ける。なんか、ムカつく。

「やっぱお前んとこに落ちてたのか。鈴って一個でも減ると全然違うんだぜ?」
「知るかっての・・・。ねえ甘寧」
「ん?」
「あんた、夢ってある?誰にも譲れないやつ」

こいつにもあるのかな、って考えた。
無我夢中になれるほどの夢。
またはいつかそれを叶えるために今を頑張れるようなアツイ夢。
甘寧は一瞬考えたようだったけれど、それは本当に一瞬だった。

「あるな」
「うっそ、マジで?あんたそれ冗談とか言ったら首とるぜ」
「物騒なこと言うなって。それと、マジ」
「どんな?」
「教えねえ」

ぶん殴りたくなった。
けど甘寧があまりに楽しそうに言うからやめた。
多分言われても、こいつにしか分かんないことなんだろうなと思った。

「随分急じゃねえか。なんかあったか?」
「なーんにも。ただ、聞いてみたかっただけだ」
「ふうん・・・お前は?ねえの?」

答え辛い。
天下統一はきっと場違いだ。
けれど「ない」と言うのも、聞いておいて癪ってなもんで。

けどそんな時、ふとある考えが降りてきた。

「・・・あんたが、頂戴」
「は?言葉おかしくね?」
「あんたが俺に、夢を与えて。どうせ逃れらんないし」
「おま・・・!俺の夢勝手に言ってんじゃねえ・・・」

それこそ意味が分からなくて声をこぼす。
甘寧はどうやら恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら、口元を隠している。
じーっと見ていたら、開き直ったらしく甘寧ははっきりと言った。


「お前と笑って生きてっことだよ!」


俺が夢をあたえているのなら。
あんたが俺に夢に与えてよね。


【夢を与えて】
そばにいるだけでもいいのだけど
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