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32 リリカルサイレント(叙情的な静けさ,⇔52)

小さい川がさらさらと流れている。
森には鳴きもしない鳥が数匹戯れるだけ。

静かだった。
なんにもない。
ただ自然な音が小さく流れるだけ。


そんな夢を見た。


「夢って忘れるタイプなんだけどさ。今回はそんな下らない夢にも関わらずばっちり覚えてるわけ。なんかあるのかねえ?ダイイングメッセージみたいな」
「殺人事件か?夢っつわれてもなぁ。俺夢見ねえし」
「なるほど、元から見ないタイプか…毎日熟睡ご苦労さん」

俺の皮肉にも気づかず甘寧はおう!と馬鹿みてーにお元気な返事をよこす。んなことが言いたいんじゃないっつうの。つうか俺、相談相手間違ったかも。

「よく分かんねーけどよ、そんだけキレーで静かな夢見れるってことはよ、お前自身落ち着いてきたってことじゃねえ?」
「俺が?結婚はしておりませんが」
「俺が生きてるうちはさせねー。そういう落ち着くじゃねえよ、心情的にっつうの?」

甘寧のくせに難しいことを言う。だがその可能性は大いにあり得るなと思って俺は夢を思い出してみた。カラフルできらきらしてて、だけどすっげえ静かで。なんつー穏やかな夢なんだか。実際の俺ときたらこの馬鹿のせいで毎日四苦八苦東奔西走してるっつうのに。

「そんなに穏やかになってるように見えるかい?」
「見えねーわな。まぁでも、落ち着いてるだろ?戦もねぇし、何より親父さんのこと…な」
「ああ」

何だ俺、相談相手間違ってねえわ。むしろこいつ以外いなかったんじゃないの?
大分長い時間をかけて、何度も衝突を重ねて俺はこいつとの和解を果たした。もっというとその先の先の、本来行く必要のないところまで行ってしまっているのだが…これはどうでもいい。まぁなんつうか、人生過ちもあるさ。

「そっか。そうかも。確かにあの頃に比べりゃ今の俺は何億倍も穏やかだ。昔の俺が見たら卒倒するかも
「おう、なんか俺地味に傷ついてんだけど」
「わざと言ってんだよ。ああ、でも夢のことすっきりしたかも。…ありがとさん甘寧」
「なんなら体もスッキリしとくか?一発とは言わず二発でも三発でもいいぜ」
「ひとりでマスかいてろ下衆野郎」
「て、てめっ、全然穏やかじゃねえよ!んなキレーな夢ぶち壊しの発言してんじゃねえ!」
「はははっ、悪ぃ悪ぃ、つい本音が」
「爽やかに笑ってんじゃねえよ!」

だけどこの笑いは本心からなんだぜ甘寧さんや?
ああ、ホントだ。俺って奴は心の底から今穏やかだ。あんなにも燃えた黒い炎はなりを潜めてすっかり静かになってやがる。だからって小鳥が飛び小川が流れるような心情にまでなるとは…ある意味悟りを開いたね俺。


ああ、だけど悪くない。
ハロー、リリカルサイレント。

今日の夢も、またあそこに行けるのかねえ?


【リリカルサイレント】
ほら、静かが、きこえる
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