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不感症シンドロームC


城にある例の納屋と似たり寄ったりのボロ小屋で、漁に使うための網だの筏だのが置いてあるだけの汚ぇところだが雨くらいは凌げるだろう。
強引に小屋の戸を開け入った数瞬後、雨がパラついたかと思うと一気に豪雨となった。雲の様子から見ても一時的なもんだな。

「…うわ、よく、分かったな」
「水の上が長ぇからな。ま、すぐ止むだろ。それまで辛抱しろや」
「あ、あぁ…」

ざぁざぁとうるさく地を叩きつける雨の音が今は助かるなと弱気なことを考えた。俺は先程言ったとおりこいつと話すことなんかねぇ。一方的に痛めつけたことを掘り返すなんざ気分が良くなるはずもない。
傀儡だった凌統が人間に戻ってきているのは喜ばしいことのように思えた。俺が奪ったものを自力で取り戻せているのに、わざわざその傷をまた開くこたねぇと思うんだがな。

「…で?答えて、くれるのかい」

こいつ多分馬鹿なんだな。それか、俺に犯される内にすっかり嗜虐嗜好でも染み付いたか。自らよくもまぁ傷付きにいけるもんだ。

「お前がごちゃごちゃうるせぇから黙らせてやろうと思った、それだけだ。テメェの自尊心をギタギタにしてやるのに、犯すのは面白ぇと思った」

直球で返答すると、凌統はギリっと唇を噛んで拳を握った。すぐにでも殴りかかってくるかと思ったが、何故か必死に堪えている。

「……じゃあなんで、俺の命を救ったんだ、二度も」
「それは言っただろ。お前は味方だ。俺は味方であるお前を殺せねぇから、犯すと決めたんだぜ。まぁ、すっかり気に入っちまって、何度もやったのは誤算だったけどな」

凌統の手が震えている。今更、恐怖ではないと思うので怒りだろう。直接ぶつけてこいと願い、わざと煽るように話す。俺こそ馬鹿だから、お前が向かってこなくなって退屈でつまらなくて、そこで初めてこんなはずじゃなかったと思った位なんだ。ろくでもねぇだろ、凌統。

「……ここ最近、避けてたのは」
「理由はねぇよ。あえて言うなら、飽きた」

ゴッ。
鈍い音がして殴られ、床に倒れた。頬が熱く、口内は血の味がした。間違いなく遠慮なしに殴られ気分が高揚するとは、俺も嗜虐嗜好が移ったか。
恐らく興奮させてくれる目をしているだろうと思い期待して凌統を見た俺は、初めて驚きで固まった。凌統は、泣いていた。

「ふざけんな。勝手に俺を辱しめて、命を救って、無視して。俺は、どうしたら、いいんだ。あんた、本当に最低だ」

顔を歪めてボタボタと泣きながら、格好悪く地に尻を着ける俺に跨がり、凌統は俺の首に手をかけた。ゆっくりと締まる。俺は今から本当にこいつに殺されるのか。それも悪くないかもしれない。

「…っ、そう、だな」
「殺してやる。殺してやる!!」
「あぁ…いいぜ。そのまま、殺せ」

望み通りの答えをやったはずなのに、凌統の手が緩んだ。それでも十分に締め付けられていた喉が急に解放され、だらしなく噎せる。凌統は震える両手を見ながら、泣き続けていた。人形ではなく、人間だったか、良かったなと他人事のように呟いたが声には出せなかった。

「…できねぇっつの。だって、今俺が生きてるのは、あんたがいたからだ。俺は、あんたを、もう、殺せないんだよ…」

そう言う凌統と目が合って、ようやく、気が付いた。そうか。

「…飽きたなんて嘘だ。俺ぁ、お前が好きだぜ」

唐突にそう言い放った俺を、凌統が見つめる。多分意味が分からねぇんだろう。そりゃそうだ。俺だって分かんねぇ。今気付いたばっかだ。俺もお前も、馬鹿だと思う。

「はぁ!?」
「色々、やり方を間違えた。詫びてどうにかなるもんでもねぇが、とにかくお前を俺のもんにしたかった」

こんなにも自分勝手な告白もこの世にねぇだろうなと自虐する。今にも殺されそうだった現場で愛を紡ぐことも、この世にまたとないだろう。
凌統はようやく泣き止んだが、意味が分からないと言ったように口をぽかんと開けて思案していた。その間抜け面は案外可愛いなと感じた自分の頭のイカれ具合にまた自嘲する。

こんな奇妙な告白をする気は毛頭なかった。気付いてもない感情だった。せっかく俺が本能的に避けてやったのに、自分が傷ついて尚深追いしたこいつが悪いと思う。盛大な責任転嫁をしながら、目の前の疑問符だらけの顔を眺める。こいつ、分かってねぇんだろうな。ずっと俺の上に跨がっていることも、ここ暫く抑えていた俺の欲が爆発しそうなことも。

馬鹿でも分かるように、熱が集まりムクムクと勃ち上がってきた息子をグリグリと凌統の尻に押し付けた。人間となった今凌統はキレるのか逃げるのか。

「っ!!ちょ、あんた何っ…!!」

凌統はやっぱり馬鹿だ。選んだのはそのどちらでもなく、赤面していた。俺が色々抑えて避けて逃げられるようにしてやったのに、その道を通らねぇで踏み留まるとは、俺以上に愚かだと思う。どれが本心かは知らねぇが、とりあえず今から欲を抑えるのは出来そうになかった。

凌統の両肩を掴み、形勢を逆転させ床に強く叩きつける。そのまま両腕を頭上で縫い付けて、自分の鉢巻きを取って縛り付けた。俺もあの半年でこういうことばかり巧くなっている。

「いっ…か、甘寧っ、ふざけんな!」
「やっぱりお前はそうやってうるせぇ方がいいな」
「はぁ!?誰がうるさ……んあっ!」

凌統の口から、これまで聞いたことがない甘い声が漏れ出た。一瞬ではだけさせた襟の下に隠された乳首を舐めていた俺は、思わず凌統の顔を見る。凌統は先程の涙の名残を目に浮かべながら、これ以上ないくらい顔を赤らめていた。

「…お前、」
「い、言うな絶対喋るなぶち殺すっ…!」
「お前さっき、もう殺せないっつってなかったか?」
「うるさい!やっぱり、あんたは俺が殺す!つうか、こんなこと、もう止めたんじゃ…あっ」
「へぇ。なんだ、お前の感じる声、可愛いじゃねぇか」
「言うなっつーの!ぅあ、んんっ!!」

辱しめるのは確かに止めるつもりだったはずだが、余りに煽る反応をするのでつい俺も意地の悪いことを言ってしまう。耳元で告げてそのまま耳や首元を舐め上げると凌統の体がびくびくと震えた。
唾液でぬるついた乳首をそのまま指で掻くように愛撫するとその度に抑えられない声が響く。正直、めちゃくちゃそそる。元々凌統に触れて勃っていた一物は既に完全体となっており、早く突っ込んでしまいたい衝動に駆られる。だが、今は一応、痛め付けたいわけではないのでどうにか我慢した。

そろそろと凌統の下部に手を伸ばすと、凌統のものも少し勃ち上がっていた。こんなことは初めてだ。つい嬉しくなって一気に下着まで下ろし、それを眺める。男のこんなものが興奮材料になる日が来るとは、本当に人生何が起こるか分かんねぇもんだな。

「あっ!?ちょっ、あんた、それはっ…!」

凌統に咥えさせたことはあったが、そういや逆はなかったな。乳首やら尻穴やらは開発してやろうと色々弄ってきたが、凌統のブツはいつもなんの反応も示さず冷めきっていたので触る気も起きなかった。それが、反応を示しているというだけで健気に思えるのだから己の掌返しに笑うしかねぇ。

竿を咥え、吸い、舌で玉まで舐めてやると凌統は分かりやすく反応した。時々涎を掬って乳首に塗りたくり指で転がすと細い腰が跳ねる。最高に色気のある反応で、どんどん気分がよくなる。

「ぁ……ん、もう……」

凌統が目を閉じて愛撫を受け入れている。腕は取られているが脚は自由なことにこいつは気付いてるのだろうか。本当に嫌であれば逃げることなど容易な場面でそうしないのは、あの半年で植え付けられた支配感によってか、それとも。

「ぅああっ、そ、そこは、」
「今日は優しくしてやる」
「んなこと、言ったって、ひっ…」

油がないので仕方なく唾液と凌統の先走りを塗ったくった指を慎重に挿入する。暫くぶりの蕾は固く侵入を拒んでいたので、宣言通り優しく抜き差しを繰り返した。解れるようなところでもねぇので、何度か唾液と先走りを足す。いつも体を固くしていたこれまでと違い、緊張が弛んでいるからか、指二本までは油なしでイケた。才能がある。中を探るようにかき混ぜていると、突然凌統の体が大きく跳ねた。

「あああっ!!や、何だ、いま、うああ、ん、待って、そこ、嫌だ」
「…感じるか?」
「だから言うなっ…ひぁっ、アっ、変だ!」

ガクガクと腰を上げて喘ぐ姿は非常に色っぽく、封印したはずの加虐心がこちらもムクムクと起き上がってくる。止めろ嫌だと口では喚きながらも、蹴るだとか逃げるだとかをしない凌統に容赦なく愛撫を繰り返した。上がる声は甘く、まさか凌統のこんな姿を見られるとは思っていなかった俺はその誤算にすっかり参っていた。
すげぇ挿れてぇ。めちゃくちゃにしてぇ。直接的な性欲を凌統の体を弄ることでなんとか誤魔化す。

「ヤっ、な、もう、やめっ、へんに、なるっ…!」
「おう。変になっちまえ。楽になれるぜ」
「あ、あ、あ、っ来る、なんか…っ〜〜!」

凌統が目を見開き、その体が細かく痙攣した。凌統のものは勃っているが、射精はしていない。そういや妓楼の女が、男も孔でイケるとか言ってたか。これか?めちゃくちゃ、イイ光景じゃねぇか。
凌統はピクピクと体を震わせ、口から涎を流しながら大きく息をしていた。こんなに色気のある様子は女でも見たことがない。
縫い付けていた布を取り腕を解放しながら、舌でその溢れた唾液を舐め取り、恐る恐る舌を口内に入れる。凌統は殴ってくることも噛んで来ることもなく、ただ呆然と口付けを受け入れた。あの夜に勝手に堪能した甘みが舌を刺激してくるのに興奮し、もっと味わいたくて何度も舌をしゃぶる。気付けばとっくに雨は過ぎていたようで、小屋に響く水音は互いの口からのものだけだった。

「限界だ。挿れるぜ」
「む、無理だって、俺さっき、なんかおかしくっ…ぅ、い、痛ぇっ」
「息吐け。分かるか?無理やりしねぇから」
「んな、こと、言った、って」

孔を突き破らんとする俺の亀頭が凌統にとっては辛いようだ。油もなくこれ以上の潤滑剤がないので、凌統に力を抜いてもらう他ない。体が柔らかいので腿ごと体を凌統の方に押し付け、乳首を舐める。舌で転がすと、また嬌声が上がり肩が震えた。何だかんだ、ここはうまく開発されていたのか。心が死んで反応がなかっただけで、息を吹き返した今となっては随分感度がよさそうだ。

舐めたり吸ったり甘噛みしたりする内に体が弛み、気付くと最奥まで入っていた。こうして挿入するのは久しぶりで、あまりの締め付けの気持ちよさに目眩がした。これまでの人生で湧いたことのない感情がかけ上ってくる。

「くっ…凌統、いいぜ。やっぱ、お前が好きだ」
「う、あ…調子の、いいことを、ああっ!」

ゆっくりと抜き差しをし、凌統の良い所を探る。反応が返ってきたところを責め立てると、頭を振って嫌がった。いや、悦んでるのか。

「やめ、あ、んっ!俺、こんな、んじゃっ」
「気持ちいいな、凌統」
「ちがっ、やっ、だ、ぁあっ!」

凌統自身も自分の反応が信じられないようだ。無理もない。これまで善がるどころか声ひとつ上げなかったのだから、俺は不感症なんだとばかり思っていた。それがどうした、この突き上げる度に上がる甘い声に波打つ躰は。こんな上物を畏縮させ封じ込めていたのかと思うと、自分のやり方にまた一つ後悔を覚える。
そのようなことを考えられたのはここまでで、後はもう霞がかったような頭でただひたすら凌統の体を貪った。凌統は抵抗も逃亡も頭にないようで、必死に俺の背に腕を回し爪を立てていた。

「イクぜ、凌統、……くっ!」
「やだ、やめっ、い、イク…!!」

多分同時に果てて、何もかもが愛おしくて、食らいつくようにまた口付ける。口内をいいだけ味わってから、その目に再び溜まっていた涙を舐めとると先程までの甘みに反して塩辛い気がした。

はぁはぁと互いの昂った息が整うまで、俺は凌統を抱き締めていた。この時間が終わる頃に俺たちの関係性がどうなっているのか分からず、すがるようにその背を抱え込む。凌統がトントンと何度か俺の背を叩いたが無視を決め込んだ。その内に苛々してきたのか、凌統がドンと強めに背を殴ってきたので渋々その体を放した。

「……本当に、勝手すぎるよあんた」
「あぁ」
「好きだとか、訳分かんねぇこと言うし」
「おう」
「俺の体、変にしやがるし」
「そらお前の才能…痛って」

強めに腹をつねられて、思わず声を上げる。凌統は笑う訳でも怒る訳でもなく、ひたすら困ったような顔をしていた。俺の前では見せたことのない珍しい表情だった。

「あんたは謝らねぇんだろうし、されても許すつもりはない」
「そうだな」
「…責任、取れっつの。身勝手に犯して、助けて、逃げるなんざ、それこそ許せないね」

凌統の下した結論に耳を疑い、じろじろとその顔を見つめる。凌統はふいと顔を反らす。目の前に来た耳が赤くなっていて、あ、こいつやっぱり馬鹿なんだと何度めかの感想を抱いた。

「…よし、結婚すっか」
「ばっ、そういうことじゃねぇっつの!」
「そういうようなもんだろ。はぁ、しっかしお前すげえなぁ。こんな馬鹿見たことねぇわ」
「はぁ!?あんたに言われるなんて心外だね。ツラ貸せもう一発ぶん殴ってやる!」
「んな格好で言ったところでなぁ。そそるぜ、精液まみれのお前」
「っ!?だからっ、そう言うことを…おい、まず俺の体清めろ!川沿い運べ!」

ギャンギャン突っかかってくる凌統を見て、懐かしさと嬉しさがこみ上げてくる。俺はいつぶりか分からないが、久しぶりに声を上げて腹から笑った。

怪訝な顔をする凌統の唇に軽く触れて、そのまま笑って言ってやった。

「愛してるぜ」

ぶわっと真っ赤になったその顔は、ちゃんとした人間のものだった。


【不感症シンドローム】
奪った貴方の感覚をこの手で返そう

 
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