Long

□リリカルノイズ
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結局二件はしごとなり俺は泥酔でベロベロだし終電はないし、それこそ学生みたいな時間を過ごしていた。そうだ、学生ってこの自由度が良かったんだ。まあ、俺はフリーターで定職はないけど、それでも明日はバイトがある。社会人には片足突っ込んでるつもりなので、普段はここまで開放的に飲んだりしない。つまり、甘寧のせいだ。

ちょっと休憩しようぜ、とかお互い汗くせぇからシャワーでも、とか言いながら、あれよこれよとホテルに連れられた。酔っぱらって歌を口ずさむ俺を褒めそやしながら、美容師よろしく髪を洗ってくれるので気分はよかった。吐き気がないので悪酔いもしていないようだ。ただひたすらに楽しい。

「お前、カワイイな」
「え〜?それは初めて言われたなぁ」

こいつもだいぶ酔っ払ってんな。どう見たってごりごりの男の俺に可愛いとかいうのはバイト先のギャルくらいなもんだ。甘寧も俺の身長は気になっていたのか、タッパあるもんな、と言及してきた。気持ちは鼻高々に187だと返すと適当に相槌を打たれた。こいつの方が低いように見えるので悔しいんだろう。甘寧は俺の長い髪を泡だらけにした後、シャワーで流してくれた。指のはらでがしがしと擦られるが、不思議と痛みはない。

「髪、結構傷んでんぞ」
「金ねぇんだっつの」
「何もしてなくても、肌はきれいなもんだな。女が怒んねぇ?」

記憶を甦らせるが、特に肌を褒めた女もそれにキレた女もいなかったので何も返さなかった。髪を持ち上げて見えた項を指で撫でられて、くすぐったさに笑ってしまう。きっちりコンディショナーまでして流してくれた後、さすがに体は自分で洗って、野郎二人で湯船につかる。家じゃ湯なんざ沸かさない。久しぶりの感覚を堪能してゆっくりと息を吐いた。湯に浸かったのは前のフェス帰りくらいか。温泉にしちゃ狭いし、ここはそもそも、どこだっけ?頭がぼうっとして、思考がふらつく。

「なぁ、ドライヤーもしていいか?」
「変な奴。面倒見がいいとも言うのかね?」
「さぁな。おら、のぼせる前に上がれ」

半ば無理矢理引き上げられ、俺はされるがままタオルで体を拭いてもらう。手頃な椅子に腰かけると、そのまま甘寧が俺の髪を乾かしてくれた。初対面だった気がするが、随分至れり尽くせりだな。手つきは乱雑に見えるが、やはり痛みはない。

対面で乾かしてくれたので、目の前には甘寧の体があった。やっぱり土方は体つきが違うな。見事なシックスパックに思わず触れる。あと、気になっていたのは龍の刺青だ。ヤクザみたいだなぁと思いながらも、こんなに間近で見るのは初めてだったので、肌の表面を撫でる。こんなに鮮やかに色入れるなんて、相当痛かったんじゃないか。噂に聞く位で想像もできない。意外とつるつるの肌は指触りが良く、初めて直で見た見事な彫り物に夢中になって辿らせる。率直に似合っていると思ったし、格好いいと思った。

ふと視界に白いものが入る。甘寧の腰に巻いただけのタオルが持ち上がっていた。あれ?勃起してない?そんなことを聞く前に、気付くとやたらでかいベッドに押し倒されていた。

「お前、煽りすぎ」
「はぁっ!?一体何の、」

続く言葉は甘寧のキスで遮られた。俺、冗談以外で男とキスするの初めてなんだけど!?
文句を言おうと口を開くが、その隙に分厚い舌が差し込まれて失敗に終わった。舌を吸われ、歯の裏をなぞられ、ゾクゾクと快感が駆け付ける。こいつ、うまい。

「ちょ、まって……ふっ、ん」

覆い被さる裸体を手で押し返そうとするが、不利な体勢と筋力で少しも歯が立たない。俺が抵抗していることは分かっているだろうに、やめてくれる様子もない。ざらついた舌と舌が触れると痺れが走る。首筋がざわざわして仕方ない。呼吸しようと必死になっている内に、指の節で首をなぞられて不覚にも全身が跳ねた。甘寧はそれすらも押さえつけるように上から体を押しつけてくる。

随分長くキスされていた気がする。解放された頃にはアルコールも相まって全く力が入らない状態になっていた。情けないにも程がある。口は解放されたが、首元、耳、肩と舐められて余りの気持ちよさにおかしくなりそうだった。ふと気付くと、俺のもしっかり勃っていた。

「うぁっ!!」
「ここ、好きか?」
「言うなっ、つの……あぁっ」

乳首を指で摘ままれ、もう片方は舐められて体が跳ねる。女に愛撫してもらう時も嫌いではないと思っていたが、快楽がその時の比ではない。刺激される度にびくびくと反応してしまう。その様子を甘寧が機嫌よく見ていて、恥ずかしさで死にそうになった。ムカつく表情に文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。

「つうか、これ、レイプだろっ!」
「ノリノリでラブホ付いてきて、風呂まで一緒に入って、お前から体触ってきてレイプかよ?酷ぇなぁ」
「俺はそんなつもりじゃ……あっ、」

勃ったものを触られ、言葉が続かなくなる。亀頭を撫でられ、全体をしごかれ、一気に思考が性欲に染まった。褒めるべきところではないが、さすがは同性で気持ちよくなる動きや場所がよく分かっていた。こうなったらもうさっさと射精して、この部屋から出なければ。とにかく男ってのは一度勃っちまったら出さないとつらい。こいつの目的は全く分からないが、俺も一発出しておかないとぶん殴る力も出ない。

軽くそう考えた俺を、甘寧はどんどん越えてくる。

「冷たっ、なに、え、待てよ、ケツに用はないだろ」
「俺はある」

そう言ってまたキスされて、くそ気持ちいいなこいつ、上手すぎて腹が立つ、脳内でだけ文句が噴出する。現実には声に出せず、絡まった唾液と一緒に飲み込んだ。その隙にぬるついた液体をぶっかけられた俺の尻に、甘寧の指が触れる。正気なのか!?いや酔っ払いだろうけど。女じゃないんだから、まさか、突っ込むわけじゃないよな。大体こういう嫌な予感ってやつは当たる。一気に怖くなってきて首を振った。

「っは、ちょっと、おい、やめろって」
「ローション使ってんだろ。痛くしねぇよ」
「んっ……そういう、ことじゃな、うぁ」

初めての感覚に息が止まる。さっきまでそこそこ上手に俺の髪を洗い、乾かしてくれた指が中に侵入している。痛くはないものの言い様のない異物感に震える。当然だが気持ちいいわけがない。ゴツゴツした指が出入りして気持ち悪くて仕方がないが、時々もう片方の指が乳首や陰部を触るので、勃起は止まらなかった。さっさと解放してほしいのに、それすらままならず嫌気に涙が出てくる。

「もう一本」
「むりっ……ぐっ……ぅう」
「痛ぇか?」
「そういう、ことじゃなく、て、無理だ、っつの!」
「痛くねぇなら続けるぜ」

やけに滑りのいいローションのおかげで確かに痛みはないが、圧迫されるその感じが気持ち悪い。だけど、抵抗する力も残っておらず、ただその愛撫を受け入れるままになってしまった。甘寧は探るように慎重に動かしながら時々唇を寄越してくる。酒で頭がおかしくなっている俺は、こいつのキスだけは気持ちが良いことを覚えてしまって、近づいてくると従順に口を開くようになっていた。

その時。

「あぁっ、ちょ、まて」
「お?ここか?」
「んぁっ、ソコ、やだっ」
「お前のいいとこ、見っけ」

背中が痺れる。いい所なんて男の尻の穴に存在してたまるか!!と蹴り飛ばしたいところだが、事実、めちゃくちゃ気持ちいい。感覚としては気持ち悪いのだけど、脳が快楽を認めている。どうかしてるっての。吐き捨てるように罵るが、声には出ない。口を開くと妙な声が出てしまうので、必死になって口を手で覆った。

「ここ弄ると、体の力が抜けていいな。挿れやすくなってるぜ」

なにを?とは最早聞けない。分かってる。危険だ犯されるぞと警鐘を鳴らすはずの脳が、気持ちよさにジャックされている。役立たず。

「なぁ、一応聞くけどよ、挿れていいよな?」
「あっ、う、いいわけっ、あるかって……!」
「お前本当に良いな」

必死で返事する俺に、薄ら笑いで愛撫を続ける。なんて奴と知り合ってしまったのか。最初からこうするつもりだったのか。当初不審に思ったものの、歌を褒められたくらいで信用してホテルまでノコノコ着いてきた自分が悪いのだが。

「挿れるぜ」
「言ってなっ……ぃ、いってえ、って」
「ローション足したから、力抜け」
「無理に決まって……ん、」

キスされて、乳首を弄られるだけで、容易に力が抜ける。ダメだこの体。ちっとも役に立たねぇよ!簡単にやられてどうすんだ!自分への罵倒も聞き飽きてくる。しかし、こいつの舌が異様に気持ちいいのは確かで、爪先を勃った乳首が掠めると腰が浮くほど良い。それをチャンスと捉えているのか、甘寧は片手で腰を鷲づかみにして腰を進める。
めりめりと甘寧のものが入ってくる。感じたことのない感覚に息が止まりそうになる。痛いし熱いし勝手に涙が出てくるし、自分の体ではないみたいだ。これが犯されるということか。しかし、なぜか、絶望するような嫌悪感はない。俺は何でこの男を受け入れているんだか。ちょっと持て囃されただけなのに。

「おう、全部入ったぜ」
「無理……抜けって……う、」

呼吸するので精一杯だ。息を取り入れようと口を開いたまま酸素を求める。目の縁から温い水が零れていって、泣くなんていつぶりだろうかと思った。決して、痛くてとか悔しくて泣いている訳じゃない。普通にしんどくて勝手に出ただけだ。一人頭で言い訳をする。甘寧は密着した股間を見たあと、俺の顔に視線を移した。欲情した男の顔なんか見たくもない。口の端を吊り上げた得意げな顔のまま唇を舐めた。

「それこそ無理な話だな。お前、どんだけエロい顔してるか分かってっか?」
「知るかっつうの……!」
「あーあー、その感じ、ダメだ。俺が持たねぇ。動くぜ」
「やめっ……ぁっ」

動いたって気持ちいいわけでもなく、出入りするブツの感覚がなんとも言えなくて呻く。時々俺のものを触られて扱かれると、それだけは素直に気持ちよかった。反射的に制止の言葉が出てくるが、どうせ聞いてくれないないだろう。もうここまで来てしまったらさっさと満足してもらって、俺も適当に出して早く帰りたい。遠い理性でそう思った瞬間に、また、感じたくもない痺れが駆け巡った。

「ここか。なぁ、せっかくだからよ、お前も気持ちよくなってくれや」

返事もろくにしていないのに、それを良しとしたのか甘寧がどんどんそこを突いてくる。挿入の度にローションが立てる音が卑猥で、まるでセックスのようで……いや、これセックスなのか?男同士なのに?
そんな思考もだんだん快楽に飲み込まれ、もはや俺の頭は早くイきたいの一色に染まっていく。それなのに今度は前を触ってもくれず、甘寧は後ろばかりを責め立ててくる。イけそうでイけない感覚が辛い。今度から、女にこんな意地悪はしないと誓った。

「あっ、んっ、か、甘寧」
「ん?何だよ凌統」

名前を呼んだだけで嬉しそうにすんな。

「も、マジで、無理だからっ、そこ、変だから!」
「お前、最高だぜ。俺も気持ちいい」

言ってねぇ!

「イかせろっての……!」

もうプライドなど、男に犯された時点で無い。早く、一刻も早く果てたい。
甘寧は仕方がないとでも言うようにまた口の端を上げて、俺のものに触れる。直接的な刺激に、想像よりすぐに最高潮の快感が上ってきた。

「んんっ……!」
「キツ……くっ」

甘寧も出したようだった。俺の中で。女と違って妊娠するわけではないが、心情的には最悪だ。中出ししてんじゃねぇよ、つうか早く抜け、ふざけんな、と言ってやりたい文句は、全部また甘寧からのキスに飲まれた。ずるい。唇が離れると甘寧は真剣な目でこっちを見ていた。

「……凌統、好きだぜ」

謝罪会見でもすんなら減刑も視野に入れてやろうとか考えていたのに、予想の斜め上っつうかもう予測不可能な発言だ。整わない息とぼうっとした頭でも、やっぱりこいつは頭がおかしいなと思った。

「はぁ、はぁ、なに、それ」
「ん?そのままだろ。俺、お前一目見て、あーこいつは俺のものになるなって思ったんだぜ」
「だから、スピってんじゃねぇっつの……」

初めて会った奴なのに、犯されてんのに、好きだとか訳分かんねぇことを男から言われてんのに、俺はやっぱり嫌な気にはなっていなくて、底辺の人間は終わってんななどと自分を卑下して終わった。眠気には勝てなかったのだ。

いくら酒が入ってるからって、こんなとこで寝るやつがあるかね。殺されたっておかしくない。ラブホは殺人事件が結構あるって聞いたことがある。痴情のもつれとか怨恨とか……そういうの……。
無駄にまっすぐ見てくる目が、殺しはしないだろうという変な信用だけをもらたす。甘寧がアホみたいに優しい手つきで髪を撫でてきて、慣れない疲れでいっぱいの俺はそのままゆっくりと意識を手離した。



【リリカルノイズ】
その騒音で愛を繋いで
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