Long

□リリカルノイズ
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「前良かったろ?ヤろうぜ」

真剣な顔で言うのが、可笑しくてたまらない。
なのに、笑えもしない。どうしたらいいんだ。

「……いれんな」
「それで譲歩したつもりか?悪ぃけど止まれ…」
「挿れやがったら、京都、絶対行かないぜ」

甘寧はたっぷりと俺の顔を眺めた。捕まれた両肩に痛いくらい力が込められている。悩んでるのか?

「……そりゃ、困るな」

こいつ、案外話通じるじゃねぇか。それならもっと手前でやめるように交渉すれば良かったような気もする。

「はぁ、マジか、そう来るか。まぁ、お前とフェス行ったら絶対ぇ楽しいしな。我慢してやるよ」
「んっ、あ、ちょっと、我慢出来てないだろ!」
「ちゃんと約束は守るぜ。挿れなきゃいいんだろ」

甘寧はやけになったかのように愛撫を開始した。シャツをめくり乳首を舐める。左手は空いた方の乳首を軽く掻く。直接的すぎる刺激に腰がはねた。
今ごろ酔いも回ってきて、頭がぼーっとする。そうだ、もう全部、アルコールのせいにしちまおう。

「…はっ、ん、それ…」
「お前、凶悪なやつだな。止まれなくなっちまうだろうが」
「酒が、ぁ、回ってきたんだっつの」
「へぇへぇ。お前、俺以外の前で酔っぱらうなよ」
「こんな、ん、醜態さらすの…あんた一人で十分だよ」
「よし、良い子だ」

こいつ一つ年下じゃなかっただろうか。偉そうにしやがって。どんどん言ってやりたい文句が全部喘ぎになってしまいそうなので、口を閉じた。
一度こいつに体を許してしまっているからか、はたまた酒のせいか分からないが、触れる指や舌の全てが気持ちいい。最初の警戒はどうしたんだって言われるとぐうの音も出ない。

「ベッド行くか?」
「挿れねぇなら行く必要ねぇだろ。さっさと抜いておしまいにしてくれ」
「こんなガチガチにしといて強がるのかよ。最高だなお前」

チノパンの上から股間を撫でられて、気持ちよさに声が出る。そのままずり下げられてブツをしごかれると堪らなく気持ちいい。射精欲が脳をまたジャックし始めて、こいつが男だとか途中までとはいえ同意しちまったことだとかが考えられなくなる。多分冷静になったら死にたくなるから、脳の防衛反応なのかもしれない。

俺のものを扱きながら、甘寧も自分のものを出した。血管が浮き出て反り立つその凶暴さと言ったら恐ろしい。よもやこんなものが体内に入ったのかと思うと怖すぎて震える。こいつも、ついでに俺も、止まれないにしても挿入までは制限して正解だと思った。

「イ、きそ…」
「おう。顔、見せてくれ」
「変態野郎……あ、出るっ…!」
「…へへ。いい顔。たまんねぇな」
「ふぅっ、ん、」

別に射精の瞬間の表情なんか見ても面白くないと思うが、じろじろ見られると妙に恥ずかしい。こいつ時々俺の顔を褒めるが本当に思ってんのか?この世には俺なんかより可愛い子や美女がわんさかいるかと思うと、こいつのセンスの悪さに脱帽する。でも、キスは上手くて、ちょっといい。

「さて。俺のこれ、どうすっかなぁ。挿れんのナシなら、舐めてくれっか?」
「地獄の二択すぎるよ。勘弁してくれ…」

いくらSONGOの幻のCDのためと言えども、フェラは出来そうにない。あまりに屈辱的だ。
甘寧は少し考えながら俺の体をソファーにうつ伏せにした。ぶっちゃけ俺は一度出しているのですでに盛り下がってきている。すごく帰りたい。だが、さすがに許しちゃくれないだろう。とっとと出して解放してくれ。

「いい尻してんなぁ。突っ込みてぇ」
「気持ち悪ぃにも程があるって」
「さっき訊いてたが、俺は別にゲイでもなんでもないぜ。ただ、お前に会ってそういうの全部飛んだ。タイプ、お前」
「直球すぎるよあんた…」

俺はどう返していいかも分からない。とりあえず顔が見えない格好で良かったなと思う。ドストレートに告白されすぎて、さすがの俺も照れてしまいそうだ。

「おい、挿れねぇから脚閉じてろ」
「な、なにすんの」
「素股」
「……キモっ。あっ」

引いていると甘寧が容赦なくチンコを俺の腿の間に突っ込んだ。玉や萎んだ棹がガチガチのものに擦られて、変な感じがする。別によくはない。
甘寧も同じなのか、何度か出入りするもそこまでいい声を上げなかった。聞きたくもないけど。

「あー…肉がねぇからなぁ。まぁ、お前にこうしてるってのはすげぇテンション上がるんだけどよ」
「っ…あっそ」
「あ、お前脚の間で、手で輪しといてくれ。ちっとでいいから先端しごいてくれよ」

返事をするのが億劫だったので黙って従う。甘寧は嬉しそうに笑うと、俺の項をべろべろ舐めながら腰を振りだした。首や耳を舌が伝うと、少しだけ気持ちよさが帰ってきて反応しかける。こら、おい、落ち着け俺。さっき十分出したから。これ以上俺はいいから。

「くっ…いいぜ、凌統。その手、気持ちいい」
「……さっさと出しなよ」
「お前のナカに出せたら最高なんだがな」
「死ね」
「お前って本当にいいな」

こんな口の悪いでか男を良いだの好きだの言う神経は理解できないが、多分深く考えてないだろうこいつのことを分かろうとすること自体が間違いだ。だから俺も考えなくていい。感じるまま、ほんの少し流されれば、楽な方にいける。

「っ〜〜、ふ…、んっ」

バックの体勢から無理やり口付けられて、ぞくぞくと快楽が駆け巡る。甘寧の動きが早くなってパンパンと体に肉がぶつかる音が聞こえだすと、いよいよセックスめいてきて耳を塞ぎたくなった。

「イくぜ……くっ」

容赦なく俺の手に射精する。熱くてぬるついてて気持ち悪い。早く手と体を洗いたい。
甘寧が俺の肩を掴んで体の向きを変え、正面を向かされたと思うとまた口付けられた。数えたくもないが一体どんだけキスするんだか。好きなのはあんただろう。

「あーー、本当に、好きだ。凌統、責任取ってくれ。こんなにベタ惚れしたの初めてだ」
「あのさ、勝手に惚れて犯しといて責任取れって、どれだけ図々しいか分かってるかい?」
「だってお前、今日なんかビクビク警戒するわりに家着いてくるし、キスさせてくれるし、挿れなきゃいいなんて、期待すんだろ」

言葉に出すな。俺の頭空っぽ感が露呈されると、本当に死にたくなっちまう。

「…ベタベタで気持ち悪い。シャワーと着替え」
「おう、使え使え。ついでに泊まってけ。俺んとこの音楽全部見てってくれ」
「一応言っとくけど、今日明日これ以上なんかしやがったらぶん殴る」
「殴られるくらいでヤらせてくれんなら、手出ちまうぞ」
「じゃあ殺すか京都やめる」
「後者は勘弁してくれ」

甘寧は喋りやすい。クソ最低な奴だから遠慮しなくていいし、これまで出会ってきた人間の中で一番気を使わない。
だけど、これが友人としてではなく、恋情を求められるのは困った。俺の貞操観念が低いせいでつい二度も接触を許しちまったが、こいつに好きだとかそんな感情は浮かばない。受け入れることと自分が想うことはイコールじゃない。

「朝まで語るか。明日休みだしな」
「俺は一日中バイトだっつの」
「お前売れるからもうすぐバイト辞めろよ」
「またスピリチュアル発言かよ…」
「つうか俺んとこ転がり込め。ベッドでかくするから」
「距離感の詰め方おかしいの自覚ある?」
「言ったろ、お前が好きなんだよ。ごちゃごちゃ手段選んでられねぇんだ」

誰かこいつを止めてくれ。
甘寧が渡してきたタオルと着替えをぶんどって、勝手に浴室に引っ込む。

あーぁ、本当に面倒なことになった。あんなのに引っ付かれて、俺は一体どうしたらいいんだ。話も趣味も、ついでに多分体の相性も合う。だけど、好きって、何なんだろう。俺にはそれがよく分からない。

ただ、こいつといると、何故かどんどんメロディーが浮かぶ。リリックが湧く。知らなかった音が溢れてくる。


結局一人悶々と考えつつシャワーを浴びて、上がってからまた新しく作られたハイボールを飲みながら音楽を聞いている内にすっかり夜中になって帰る気が失せ、泊まるはめになった。


***

はっと目を覚ますと、見慣れない天井が映った。冷房完備で汗もかいていないし、変な夢も見なかった。知らない家で爆睡するとは俺の警戒心もいよいよぶち壊れている。

ベッドを譲ってもらったので甘寧はソファーで寝ていた。面倒見がいい奴だなと初対面でも感じたが、色々尽くしてもらいすぎな気もする。それが、その感覚が、嬉しいというより悔しい。俺は庇護してもらうような存在じゃない。


ぐうぐう眠る甘寧を尻目に、ギターケースを抱えて部屋を出た。スマホによると朝の5時。普段なら間違いなく寝ている。
最寄り駅まで歩いて、コンビニで適当に飯を仕入れて、始発に乗ろう。家に帰ってバイトの時間まで、頭にある音楽をぶちまけよう。このまま脳に入れていたら、どこかへ逃げていってしまいそうだ。

俺は、まだ大丈夫。これまでの俺のままだ。
あんな奴に、持っていかれたりしない。



【ノーカウント】
貴方との逢瀬なんて数えてあげない

 
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