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34 モザイク(今回は現代的に、見せてはいけないものを隠すといった意味で使用)
見てはいけない、見せてはいけない。
そんなものを隠せる何かがあればいいのに。
「つうかあれだよ、あんたの存在そのものを隠したいね」
「おっ、自分以外には見せたくねえってか!愛されてんな〜俺!」
「都合良い解釈しやがって…。恥ずかしすぎて世間様に見せらんないっつってんの」
「俺の体が眩しすぎるってのも考えもんだな」
「言ってねえよ!あんたはほんとに何を聞いてんだ!?」
ついいつものようにつっこんでしまうから、周囲の兵に笑われた。しまいには本当に仲がよろしいですね、とまで言われた。心外だっつの。
ただこいつといてこんな風に下らない話をしている時は楽だと思う。難しいことなんざ全然考えないでありのままの自分っつうやつでいられる、そんな感じ。だから甘寧がたまに本気になったりすると俺は勝てない。恥ずかしすぎる。
「凌統、だいじょうぶか?」
こんなときだ。
本気で心配されたりだとか、声色が少し優しくなったりだとか、はたまた急にエロくなったりだとか。色恋の方面に本気になられると俺にはどうしようもできないのだ。
そんな優しい顔似合わねえっつーの。そう言ってやりたいのに俺はただただ赤面するばかりで言葉が滑り出てきやがらない。どこの乙女なんだ俺は。こんな俺の顔こそ、隠してしまいたい。
そんな情けない俺を見た甘寧がますます怪訝な顔をして俺を覗きこむ。あああ、無理!お願いだ、隠してくれ!顔だけでいいから。
直視できないから、隠してしまいたい。隠せるのならなんだっていい。でかい布でも薄い書物でも、何でもいいんだ。この見えている世界そのものに筆で落書きできればいいのにだなんて下らねえことを、俺は何度も考えた。墨をすってたっぷり含ませて筆を走らせる。きれいになんて書かなくていい。ぐちゃぐちゃでいいから、この世界を隠してくれ!
なんて、視線をそらすこともできない弱い俺は何かにすがるしかないんだよ。
「…凌統」
「…なんだい」
「逃げんなよ」
「は?」
そう言われて俺は一瞬現実に返る。だが甘寧の真剣な色恋の目を見ると俺はたまらなくなってまた口をつぐんだ。くそ、なんだってんだよ!
「逃げてねえだろ。ちゃんと、見てるっての」
「見てるっつうよりただ映してるだけだろうが。違ぇよ、俺の気持ちもちゃんと見ろや。まさか隠そうだなんて思ってねえよなぁ、凌統?」
ニヤリと笑われて、俺は限界を突破した。ああくそ、なんだってあんな顔ができるんだ!?
普段とは大違いじゃねえかバ甘寧!
「くそっ…無理、だっつの」
「なんでだよ」
諦めて視線を外し、卓に思い切り突っ伏した俺を見て甘寧は笑った。どうやらからかいは終わったらしい。
甘寧の想いとかいう奴は分かっているつもりだし、俺だって一応、自分の気持ちを自覚してはいる。
だがだからと言って急に素直になれというのも無理な話だし、恥ずかしがるなというのも俺にとっちゃ厳しいご意見だ。
うーうーうなっていると甘寧は楽しげに笑いだす。
こういう何気ない笑いが、本当は好きなんだぜ。
まだまだ言ってやらないし、言ってやれないけどさ。
楽しげな甘寧をちらりと見て、俺は自分の羞恥心さえ隠してしまえばいいのではないだろうかと、新しいことを考えていた。
【モザイク】
はずかしいきもちにモザイク。