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30 未視感【ジャメ・ヴュ】(よく知っているはずなのにはじめてと感じること)

最近、俺は少しばかりおかしい。
自分で言うくらいだから、よっぽどのものだと思わないかい?
そりゃあそうさ、なんせ俺まだ24なのに、少しずつすこしずつ、記憶が抜け落ちていってるんだぜ。

な?オカシイだろ?



「凌統どの、最近元気ないですね。どうかしましたか?」
「ん?あぁ、陸遜。あー…まぁ、ちょっと知り合いが病気でさ」
「病気ですか?」
「ん。まだ20代なんだけどさ、記憶が、なくなってってるみたいなんだよね」

俺が内心ひやひやとしながら言い終えると、陸遜は俺の側に座ってから真剣な目つきで考え込んでしまった。
ああ、話すんじゃなかっただろうか。あまり聞かない症状だからってびびりやがって公績テメェ馬っ鹿野郎。この病(かどうかも分からない何か)のことを知りたいのか知りたくないのか?そんなの、俺にだって分かんねっつーの。ああ、自分面倒くせえ。
そんなことをぐちぐち考えていると陸遜がそういえば、と言いだした。さすがは天才軍師さん。知識の量も広いねぇ、ほんとスバラシイことで。

「これは耳に入れただけですので、文献などをみたわけではないのですが…、以前とある娘がとある人物のみ、忘れていくという症例があったようですが…そのような感じでしょうか?」
「っ、それ!まさにそれ。全部じゃない、部分的に。もっと言えば一人だけ、思い出せないみたいだ」
「ではこの娘の話を。彼女は恋人を親友に奪われ、深く絶望したそうです。娘は怒りや憎しみ、悲しみで…記憶をなくしていったんです。あんなに好きだったはずの恋人のことを、忘れていくんです。恋人を忘れてしまえば、親友ともそのままでいられるし、そのような負の感情を忘れてしまえる。…とでも考えたのでしょうか…。原因は、分かっていません」
「…じゃあ俺の知り合いの場合も、そんな感じで強い衝撃があったってことなのかねえ…その、忘れていく奴に関連することで」

まあそうでしょうね、と陸遜は割と淡白に言い放った。まぁ確かに陸遜にとっちゃこれは俺の“知り合い”の話で、直接関わりないしねぇ。むしろここまで教えてくれて感謝っつうか。

つまり、俺が**のことを思い出せないのは、必然なんだろうか?

「でも、本当はちがう。その親友もまた、一部の記憶を…」
「え?ごめん、考え事してて聞いてなかった」
「いえ、この病気には対策がないのでどうしたものかと」
「んー、まあ確かに具体策なんざないし、しょうがないか。そいつにも話してみるよ。ありがとさん陸遜。忙しいのに足止めさせちまって悪いね」
「いえ、凌統どのと腰を据えて話すのも久しぶりですから。今度ゆっくりお茶でも飲みましょう。では」

相変わらず見とれる笑みを振りまいて陸遜はいなくなる。俺も重い体を起こしてようやく動き出した。陸遜の話を反芻させながら俺は一応、**のことを思い出そうと試みた。
赤、雨、…これ以上は何も思い出せない。あぁ、あと、かわいい音が聞こえたような気もした。

「よお」

ドクンと心臓がはねる。俺はその付近を手で押さえながらゆっくりゆっくり息をはいた。
落ち着け、まずは確認していこう。俺は凌統公績、呉に父の代から仕えていて、そこそこに軍内のことは知っているはずだ。とくに軍人であればほとんど名前を知っているし、せめても顔くらい見たことがある。だから、顔も名前も知らない奴なんていねぇってこと。

つまり、サッパリ見覚えのないこいつが、**ってことだろ?

ああ、何も、おもいだせない。

「…よお。なんだい真っ昼間からヒマそうだね」
「そうでもねぇぜ?ようやく探し人に会えたんだしな」
「はあ?…って、俺ですかい?なんでまたあんたが俺なんざに」

**は俺の肩を勝手に押し、まぁまぁと言いながらさっきまで俺と陸遜がいた庭まで連れてゆく。俺にとってはただの出戻りに過ぎないんですが。そして、どうせ覚えられもしない奴となんざ話したくないんですが?

「ったく、なんだっつーの!俺はあんたに用はねーよ」
「俺はあんだよ、考えりゃ分かんだろうが。…ま、ここならいいか」
「…なんなんだっつの。勝手な野郎だ」

俺はイライラとしながらも、さっさとこいつとの会話を終えるべく堂々と座り込む。こんなところで渋っている場合じゃない。つんつんと立たせた髪、赤い鉢巻、がっしりとした体躯によく映える刺青、そして鈴。…あれ?俺、この音をどこかで…

「簡潔に聞くぜ凌統。おめぇ、俺と話すの何度めだ?」
「はぁあ?んなこといちいち数えてられるかっつうの」うそだ。本当は一度だって覚えてない。
「質問を変えるぜ。お前、俺と最後に会ったのいつだ?」
「なんっだその質問。おかしいって分かってんのかい?」
「俺はお前に聞いてるんだぜ凌統。俺が答えを知ってようとなかろうと関係ねえだろ」

何言ってんだこいつは。
訳が分からないと思いつつも、俺の頭の中では危険信号が鳴り響く。もしかしなくても、バレてんじゃないだろうか。…まぁ、無理もないよな。こいつの、**の記憶だけ抜け落ちてるなんて、妙にも程がある。そりゃあ当事者なら気付くというか、まず不可思議に考えてもおかしくない。

「……」
「答えられねえってか?前からおかしいとは思ってたんだ。殺気がねえし、何度会ってもそれ以前の会話を忘れたような返事しかしやがらねえ。…俺のこと、忘れてるのかよ?」

忘れたくて忘れてるわけじゃねえっつの。俺だって出来れば誰かを忘れるなんざしたくなかったよ。あんた、俺に、何したんだよ!

よく知っているはずなのに、何にも分からない。まるであんたとのことは初めてのように感じられるんだよ。なあ、わけ分かんねえっつの。

「だったら、これで覚えてられっかよ…!」
「んんっ!?…っ、んー、ん…っ」

突然で強引で、そして無意味な口付け。男にして何が楽しいんだっつの!気色悪い、っつうかこいつまさか毎回こんなことしてんじゃないだろうな?!それで記憶をトバしているんなら理不尽すぎる。こいつに非がありすぎるっつうの。そんでもって舌入れてんじゃねえっつうの変態!!こういうのは…

「はっ…なせこの変態が!何しやがるんだっつうの!」
「てめぇが俺のことホイホイ忘れるからだろうが!もっと上のことしてやろうか、あぁ!?」
「なんだよ上のことって!っああ、いいよ言わなくて!用はそれだけかよ、そうなら俺は帰るぜ!」

**は何かを言いたげだったがしばらく口をぱくぱくした後噤む。なんだよこいつ、言いたいことがあるならはっきり言えっての!俺がそう言い捨てるとそいつはどこか寂しげに、言い放った。

「甘寧」
「は?」
「俺の名前だ。覚えとけ」

俺は何も返さず、くるりと振りかえるとそのまま進む。今度は追いかけて来たりはしなかった。俺は一度だけぴたりと歩みを止める。進行方向を見つめたまま、ぼそりと言い放った。

「多分、明日には忘れてるぜ。…悪いね、甘寧さんや」
「っ、凌統!」

俺はもう、振り返りも止まりもしなかった。



だってしょうがないだろう。今はまだ覚えていても、少しずつ、もやがかかっていくみたいに抜け落ちて行くんだ。それもあんたのことだけ。どうしてだろうな。俺たちの間に、何があったんだろうな。…それをいつか知る日が、来るのか?この病気はいつか治るもんなのか?

「…子明さんなら、教えてくれるかねえ…」

いとしい人の名前を呟いて、俺ははにかんだ。甘寧に無理やりされた口付けも、祓ってもらわねばならない。ったく、なんなんだか。忘れられたくないからって普通口付けるかね?頭おかしいんじゃねえの、甘*…あれ?なんだかったかな。**、**。





「…私は、**どののことが…。…ねえ、凌統どの、思い出せないのです。私は、**どののことが……好きだった…のでしょうか…」


【END】

お題がムズカシイ
呂陸から呂凌になってショックで陸は呂を忘れ、なぜか凌も奪ったことを忘れて
凌は父のことで甘のことを忘れてる
陸の話していた娘=陸そのもの
つまり陸は現状把握はできてる←書とかにメモってたんじゃね?

っていうくらい適当な設定の下書きましたスミマセン若年性アルツとかじゃないよ。
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