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36 コケティッシュ光線
(コケティッシュ:女性の艶かしいさま)



扇情的なつやつやした唇がゆるりと弧を描く。とてもゆっくりと上品に笑う。
魅惑的な瞳は少しぬれ、長い睫毛がふるりと震えた。そんなコケティッシュ光線に俺たち武将、いちころです。


これは己の身を守るため、そして孫呉の発展を実現させるために日々欠かせない。仕方ないのだ。と昔から頭に叩き込まれてきたが最近はそう思わなくなってきた。ただ苦痛なだけでなく、そのなかに快楽が混じってきている。それというのも目の前にいる熱血馬鹿のせいだが、それにすっかり感化された俺はもっと馬鹿っつうことなんだろうか。癪だ。

「おら、何考え事してんだよ!しっかり腰動かせや」
「うっせえっつの馬鹿。痛っ、ヤメロって」
「止めろって言われて止める馬鹿がどこにいるんだよ」
「あんた底なしの馬鹿だし止まるんじゃねえの?…っうわ!」
「ははっ、焦った顔もなかなか可愛いぜ?」
「くそっ、鬱陶しいんだよ!」

しかもこれが公衆の面前というところがまたポイントというか。甘寧の野郎の恥ずかしい台詞はわざとなんだろうが、それに乗っかる俺はやっぱり馬鹿かもしれない。周囲が顔を赤らめているのも分かっているが、面白さには代えられないっつうか…気持ちいいんだよ。仕方ないだろ。

「もっといい声上げてみろよ、凌統ちゃんよ」
「そりゃ、こっちの台詞。あんたも、そろそろ限界なんじゃないの?」
「はは、その流し眼。ほんっとソソるよな」

ずんっと重くなった甘寧に思わず目を瞑りそうになるがどうにかそれを抑える。目なんざ瞑ってしまえば何をされるか分かったもんじゃない。たとえそれが一瞬だとしてもだ。そう思って負けじと力を入れようとした途端に、この謎の濃厚な空気は壊された。いや、換気かな。

「お前ら、もうやめんか!十分だ!!」
「呂蒙さん、どーもお疲れ様です。イイ時にまた邪魔しますねえ」
「あんだよおっさん。今いいところだったろうが。寸止めが趣味かよ」
「だあああ!!お前らの、その気色悪いやりとりのせいで周りの兵士が狼狽しておるだろうが!!鍛錬くらい普通に出来んのか馬鹿ども!!」
「馬鹿どもって、こいつと一緒にしないで下さいよ」
「お前だってしっかり乗ってたじゃねえか。おい、おめーら欲情してんじゃねえぞ!」

甘寧がニヤニヤと笑って兵士に大声で言うとそいつらは慌てたように立ち上がりそそくさと出て行った。うっわ、ガチだよあいつら、ふざけんな。後でしめてやる。
他人と本気で打ちあうことはやっぱ重要で、危機感やら瞬発力やらを普段の鍛錬より何倍も思い出させてくれる。その中でも甘寧との仕合は最高だった。なんだろうな、ムカつくが互角だし、周りからしても吸収すべきとこは多いと思う。甘寧の身のこなしは俺には出来ないし、その逆もまたしかりだ。だからよくこうやって下っ端の奴らの前で仕合をさせられたりする。それを逆手に楽しむようになったのは甘寧が発端なのは言うまでもないだろ?

「あれだけ打ちあって息一つ乱さず、手本になる動きをしながらも、よくあんな芝居が出来るな…」
「おいおいおっさん、凌統は息乱してただろ?相当エロく」
「あのねえ、演技に決まってんでしょうが。はー疲れた。んじゃまたな。呂蒙さんもお疲れさんです」

使い古した布で汗を拭いながら水でも浴びようかと考えていると後ろに気配を感じた。甘寧が追って来るっつうことは、どうせまたお誘いの言葉だろう。ったく忙しい男だな。

「凌統、な?どうだ?」
「あんたも好きだねぇ。…ま、いいか。久々だし」
「んだよ、てめぇも好きなんじゃねえか!」

相当嬉しかったのか、甘寧はぐいと俺の手を引きさっさと歩きだした。きっと今のコイツに風呂だとか言っても入らせてはくれないんだろうな。そんなことすら分かるようになっちまって…いつから仲よしこよししてんだか。毒づきながらも悪くないと思っている俺がいるのも、間違っちゃいないんだけどさ。


「相変わらずイー眺め」
「たまんないねぇ」
「もうここ色町だよな、こんだけいい女いっぱいいたらよ」

連れて来られた先は馬で少し行った所にある小さな町。その付近の櫓の上で町を見下ろすのが最近の俺らのブームであった。なんでだか知らないが、ここにはずいぶん上級の女性が多くてつい見てしまうのだ。色町ではないのに、艶めかしい女性ばかりなのでそうなのではないかと勘違いしてしまう。

「お。目があった」
「うはあ、美人。あんたのタイプだよな」
「そういうお前は隣の清楚系なんだろ?」
「ああ、あれは可愛いね…ここ少ないから、余計輝いて見えるっつうか」
「お前の言い回しって妙に変態くさいよな」
「エロ親父には言われたくないっての」

ああ、そんな風に見ないでくれっつうの。女に飢えた俺たち武将、そんな目で見られらたいちころですっつうの!

「そういや凌統、ここ最近のこの町で流れてる噂知ってっか?」
「うわさ?いや知らないね」
「櫓の上にイー男二人が寄り添い合って町を眺めてるってよ」
「…だから最近、いろんな女性と目が合うわけだ」

恥ずかしい。素直にそう思った。もうここはしばらく来れないんじゃないか。思わず顔を赤らめたまま甘寧を見やる。やべ、女性たちの目が、コケティッシュな視線が、うつってきたかも。

「凌統、ムラムラしてきた」
「…ああ、そう」
「凌統、ムラムラしてきた」
「…で?」
「…俺にはお前の目も、たまんねー」

俺たち武将、コケティッシュ光線にいちころです。


【コケティッシュ光線】
なまめかしさには勝てません!
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