若旦那の書棚
□他人の褌で取っても、勝ちは勝ち
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開いた自動ドアの前で、思わず立ち竦む。
「銀さん?」
何やってるんですか?――と振り返る妙に、銀時はゴクリと喉を鳴らして足を踏み出した。
〈他人の褌で取っても、勝ちは勝ち〉
高級感溢れる絨毯に、天井からぶら下がるシャンデリア。ピシリ、と一揃いの制服と笑顔で決めた従業員。指紋を思わずベタベタ付けたくなるようなショーケース。彼方も此方も場違い過ぎて、一人なら間違いなくUターンを掛けていた。
「やっぱり綺麗ですねぇ…」
他人の気も知らず、感嘆の吐息を漏らす妙が憎たらしい…。銀時は、眉間に皺を寄せて袂を探る。
「違ェだろ。今日は、依頼で来たんだよ」
「依頼を受けたのは銀さんでしょ?私は付き添いです」
「オメーにも礼を払うって事になってんだろーが」
ばさり。
妙の前に一枚のチラシを突き出した。
「ほれ」
溜め息ひとつ。
妙は、チラシを一瞥すると近くにいた女性店員を呼ぶ。
派手過ぎず、地味過ぎず。一流店の店員は、見た目から好印象だ。好印象過ぎて、更に居心地が悪くなる。
「いらっしゃいませ」
教本の様な御辞儀を見て銀時は、妙がいなかったら踵を返していただろう。
襟首を掴まれないから。
ぐえっ。と思わず潰れた声を捻り出して、銀時はチラシを店員へと差し出した。
「此の指輪、一丁頼みたいんだけど」
『限定アニバーサリーリング』と銘打たれた広告は、此処ジュエリーショップのモノ。
店員は、見事なビジネススマイルを浮かべると、少々御時間を。と丁寧に頭を下げた。
無駄のない動作でショーケースの隙間を縫って行くのを見送って、銀時は視線を下ろす。
「女ってのは好きだよねェ…こう言うの」
自分の仕事は果たした――と言わんばかりに、妙はショーケースの陳列品に瞳を輝かせている。
指輪。首飾り。耳飾り。腕輪。髪飾り――簪もある。
「だって綺麗じゃないですか?」
「ほうほう。じゃあ、売れっ子キャバ嬢なら、御得意様にでもオネダリしてみたら?」
「嫌ですよ。こんな安物」
――買って貰うんなら、高いのが良いです☆
うふふ。
唇に指先を触れさせる妙に、銀時は頬を痙攣させる。
此処には、『0』が七つも八つも…其れ以上も(!?)あると言うのに――安物?
「一体、何処ぞの傾城だよ」
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