執事様の書棚
□坂田さん家の志村くん
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かぶき町立かぶき幼稚園に通う新八が『かぐや姫』のお伽噺を初めて知ったのは、そのエイプリルフール前日。月を見上げながら情緒たっぷりに読み聞かせてくれた。
そして、その翌日に。
「私は、かぐや姫よ。今夜月に帰るの」
何て、涙ながらに言われたら、純真無垢な幼稚園児の新八が信じても無理はない――し、遠い記憶にしたいのももっともな事だ。
――アレ?エイプリルフールの話だっけ?
「まあ…いっか。ぼく、お買いもの行ってきま〜す」
「…じゃないでしょ。新ちゃん」
――あの時の十二単は重かった。とか、サラサラヘアーは似合わなかった。とか、大人気ない大人たちの横を通り抜けようとした新八の襟を掴んで妙はにっこりと微笑った。
「私と銀さん、結婚するって言ってるじゃない」
「マジですか…。姉上」
「「マジです」」
「アンタにはきいてねーよ!このダ天パ!」
「何だと!駄メガネ!!」
「アンタみたいなダメ大人の見本、だれがしんじるか!!
っていうか、姉上!じょうだんでも止めてくださ!!こんな男と結婚だなんて!」
「冗談じゃないわよ。マジだって言ってるじゃない」
「……なっ!?反対です!なんでこんなマダオと姉上がっ!」
「ダメ?新ちゃん…」
「ダメです!ダメダメです!!」
「…オイ。なんでダメダメ何だよ」
「天パで糖尿でマダオで万年金欠で天パでチン侍でヘタレで糖尿でちゃらんぽらんで天パでグータラでヘタレで女ったらしで天パで天パなヤツに姉上をやれるかァァァァァー!!!」
「オオォォッイ!何回、天パって言った!?
糖尿とヘタレも二回言ったぞ!」
「何回でもいってやるよ!!
この天パ天パ天パー!」
ガシッ。
ガシッ。
と新八と銀時は胸ぐらを掴み合う。
「テメェっ!
俺みたいな侍になるって言ってたクセに、そこまで言うかァ!!」
「アンタは侍としてはそんけいにあたいするけど、男としてはサイテーだァァァ!」
「下の毛も生えてないガキが男を語るんじゃねェェェ!」
「園児相手に本気でなぐりあって、つかみあってる男にいわれたかねェ!!」
二人は、ギリギリと互いの襟元を絞めながら睨み合う。その様子は、他人が見ても大人な子供と子供な子供のガチンコバトル。
有難い事に、幼児虐待とは通報されないだろう(笑)。
ガルル…と唸り合うのを、妙が溜め息混じりに見守ってると、ひょっこりと愛らしい姿が現れた。
「銀ちゃん、姉御ォ。まだアルカ?」
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