執事様の書棚
□君色ってどんな色?って訊ねても、馬に蹴られるので止めておけ。
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――ッ痛…。
微かな痛みの訴えに、眼鏡を外して目頭を抑えた。ノートパソのモニターが滲むのを視界に残しながら目線を動かせば、壁で時を刻む針が、頂点で間もなく重なるのが確認出来る。
「昼か」
猫毛の頭を掻いて、銀時は回転イスの背もたれの非難を浴びながら背伸びをする。
息を吐いて、肩と首を回して、ゴキゴキ鳴る音を訊いた処で、騒がしい足音を耳にした。
「あっ!銀ちゃん」
勢い良く開かれた扉から、見知った顔が四つ飛び込んで来る。
「静かにしろー。図書室だ」
「イイじゃないですかィ。どーせ、先生以外誰もいないんだろィ?」
あー…涼しい。クーラー最高!と、訪問者達は口々に感嘆する。最後尾者が、キチンと扉を閉めて銀時に会釈した。
「こんにちは先生。コッチに居たんですね」
「んー?」
「準備室にはいなかったので」
――あんな処居れるかよ。
と垂れ流せば、苦笑された。
「で、何?お前等」
「涼みに来たネ」
と、仲良し四人組の一人、神楽が汗をダラダラ流しながら、手近な椅子に腰掛けた。その正面に陣取った沖田も、同意のように机に突っ伏す。
「僕は、本を借りに来ました」
「僕は、返却です。お願いします」
このクソ暑いのに、スカートの下に黒のスパッツを履いた九兵衛は顔だけは涼しげで、廊下と室内の温度差に眼鏡を曇らせた新八は、本をカウンターに置いて、眼鏡を拭った。
「ん。其処、置いとけ」
「っタ!?」
銀時は、返却図書を一瞥すると、手元にあった消しゴムを神楽の頭に命中させた。
「素見しなら帰れ」
「冷やかしじゃナイネ!死活問題ヨ!」
「先生。神楽は、日射病になりやすくて…」
「知ってるよ。だから、こんな暑い日に学校来んじゃねーよ。
二年は、補習ねーだろが」
夏季補習は、全学年の期末試験赤点保持者に義務付けられているが、其れは七月いっぱいか、せいぜい八月初旬。八月下旬に設けられている補習は、三年の希望者のみ。
二年の彼等には、縁も所縁もない筈だ。神楽に至っては、来年になってもないだろう。
「私は、付き添いネ」
投げられた消しゴムを投げ返しながら、神楽は頬を膨らませた。
「部活に付き合ってくれてたんです」
そう言や、新八・沖田は男子剣道部。九兵衛は、女子剣道部の主戦力だ。
夏休み明けの大会に向けて、何処の運動部もこの暑い中、毎日が部活動に勤しんでいるのは当たり前か。
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