執事様の書棚

□神有月の欠片
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まあ。冴えないマダオ教師にツレない可憐な女子高生が、志村妙。なのだからしょうがないっちゃあ…しょうがない。
恨むなら、甲斐性のない銀八自身――。

ちっ…。

短くなった煙草を潰して、新しい物に火を点ける。直ぐにユラユラ上がっていく紫煙は、開け放した窓の外に流れ出る。
窓枠には、吸い殻が久々に山積となった準備室専用の灰皿。
応接室と校内に一ヶ所の喫煙所以外が禁煙になってから、最近は控えていた――と言うのは建前で。彼女が、煙と匂いに眉をひそめたから。
手前勝手に雑用を押し付けて、連れ込んでいたからと、数を減らして換気にも注意していた。けれど、其れももう終りだ。

――脈なんて、図々しい事は考えてちゃあいなかったケド…普通に、担任としては慕っててくれてると思ってたんだけどな…。

一言すらないのは、好意処か嫌悪に近い対象なのだろう。此の部屋で、雑務のお願いなんで二度と出来まい。
其れにしても、卒業までまだ五ヶ月ほど残っているのに、どうやって接しろと?
女生徒にコクられてフった時の、身の振り方は経験があるが、コクる気もないのにフラれた時の身の振り方には自信がない。

「とっとと誰かと付き合ってくれてたら、フツーに不良教師やってたんだよ…」

――って、フツーの不良教師ってなんだよ?

「普通の不良教師ってなんですか?」

思わず――銜えていた煙草を吹き出していた。慌てて拾い上げて灰皿で揉み消すと、頬が痙攣した。

「……ナンノヨウデスカ?」

発熱、目眩、動悸、冷や汗、震え。風邪に似て非なる症状が、銀八を襲う。

――帰ったんじねぇの!?志村姉!

「…忘れモノがあったんです」

なんでカタコト?と、頭を傾げる様子に目眩して、後ろ手に彼女が入り口をピタリと閉めと、発熱、動悸がますます激しくなる。

「忘れ物〜?」

ゴホン。

態と咳払いをひとつして、白衣のポケットを弄る。
最後の一本。
クシャリ。空き箱を握り潰して灰皿の横に置いた。銜えた其れに、一瞬、逡巡してライターに火を点す。

「だったら、さっさと探しに行けや」

彼女を突き放すつもりで、煙を外へと吐き出した。一瞥すれば、眉間の皺が一段と険しい。

「先生。此処、禁煙ですよ」

「此処は、治外法権が適応されるんですぅ〜」

はぁ…。

「何?此処にゃあ、お前のモンは――」

「先生に訊きたい事があるんです」





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