執事様の書棚

□神有月の欠片
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溜め息を吐いた彼女が、黒真珠の瞳で銀八を縫い付けるように見上げてくる。
真っ直ぐで、真面目に。

――中身は、小悪魔だけどな。

「先生は、何で猿飛さんを此の準備室に入れてあげないんですか?」

…………。

「訊いてます?」

「――訊いてっけど、本気で訊いてんの?」

頷く彼女をど突きたく――嘘です。銀八は、自分の壁に打ち付けたくなった。

「彼奴を此処に入れたらオシマイだろぉぉぉがァァァァァァ!!」

いつだったか。
ほんの数分、便所に行った間にさっちゃんは。スク水着にエプロンと言う…パッと見、なんちゃらエプロンの体で待ち構えていたのだ。
彼の時は、運動神経の引き出しと言う引き出しを開けて、社会準備室の服部の処に滑り込んだ。
――以来、どんな時も此の部屋を出る時は鍵を掛け、さっちゃんは二度と立ち入れさせないと誓った。

「じゃあ…おりょうちゃんや九ちゃん達の時は、何で入り口を開けさせてるんですか?」

「閉めるほどでもないだろ」

此処に来る生徒は、大抵課題やプリントの提出や其の提出の延長願い、持ち物検査の没収品の引き取りやらで、烏の行水並みの滞在時間。開け閉めの方が手間。
他に『異性と無駄に密室に二人きりになって、変な勘繰りをされないようにしましょう』と、恩師の教えがつい、過るせいでもある。

「逆に、神楽ちゃんや月詠先生の時は、何で締め切ってるんですか?」

「神楽は、其処のソファーでゴロゴロしながら菓子食ってんだよ。知ってんだろ、お前も」

一応、此処は学校で国語準備室だ。周知の事実であろうとも、取り敢えず隠すべきだろう。

「月詠は、一応仕事の話なんだよ。進路とか?テストとか?
あんま大っぴらにする話じゃねぇだろ?」

月詠は、同じ教科担任で其の手の話が多い。職員室に顔を頻繁に出せば済むかもしれないが、面倒で朝礼と職員会議以外は行く事はほぼない。

「ったく、そんな事わざわざ訊きに来たのかよ」

志村姉からの質問に答えて、銀時はガシガシ頭を掻いた。
帰れ。と言わんばかりに手を振れば、彼女は――。

「あとひとつ」

銀八の手など気にもせす、瞳を見据えて歩んで来る。
一歩、二歩、三歩…。

「せんせぇ…」

大した広さもない準備室。彼女は、銀八のクラス委員は――妙は、銀八の目の前で立ち止まった。




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