執事様の書棚
□涙は背中で語れ〜伍〜
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《月九も昼ドラも、
見処は修羅場》
「お願いです、御義姉様。私と新一さんは、愛し合っているんです」
「まあ…巫山戯た事を。貴女の様な何処の馬の骨とも分からない女を、新一さんが好きになる訳がないでしょう」
「あっ!」
パシッ。
「二度と新一さんに近付かないで!」
「そんなっ…!」
……………………。
晴れた昼下がりの知人宅。銀時は、取り敢えず見知った下宿人と一応顔馴染みの其の家の住人が、庭に面した一室で何やら面妖な世界を繰り広げているのを目撃した。見覚えのある眼鏡掛け機が、虚ろな眼で黙して正座している姿も見える。
「私達は真剣なんです!どうか許して下さい、御義姉様!」
「止して頂戴!貴女にそんな風に呼ばれる謂れはないわ!」
「落ち着くんだ、妙。そんな頭ごなしに…」
「ゴリラが人を呼び捨てんじゃねぇぇぇぇぇぇっ!」
「って言うか、何処から入ったアルカッ!!」
しれっと入り込もうとしたゴリラストーカーは、いつもの如く打ちのめされる。悲愴な悲鳴が、物凄く耳障りだ。
ホント、一体何やって――。
「一体、何やってるんですかィ?」
「否、俺もさっき来た処だから。分かんないから」
心の声を代弁されたかと思えば、背後に殺気、首筋に小さな痛みが疾る。僅かに視線を下ろせば、ギラリと閃る切っ先。両手を上げて、ダラダラと冷や汗を垂らす。
よりにも寄って、ドS王子に背中を取られるとは…目も当てられない。
「落ち着こうか。総一郎君」
「…総悟でさァ。旦那」
口許を引き攣らせて懇願する。暫しの後、徐にひやりとした感触が引いた。
短い金の音で、凶器が鞘に納まったと胸を撫で下ろした。
「こんなゴリラを仕込むなんて…一体何処まで姑息なのかしら?」
「誤解です。御義姉様!」
「まあ…白々しい」
目の前の光景は、一向に息も吐けそうもないが。
ドカッバキッボキッドゴォッ。
小姑(仮)と嫁(仮)は、互いに罵り合いながらゴリラに下す鉄槌を止めない。息の合った連携で、愚か者が宙を舞う。
「あー御宅ん処の大将…エライ事なってっけど」
「ウチの近藤さんを見縊らないで下せェ。首と胴が離れない限り、多分大丈夫なんですぜィ」
「多分なのかよ。…まあ、ゴリラだしな」
とばっちりを受けたくはないので、銀時はドS王子こと沖田と共に眺める事にする。小姑(仮)と嫁(仮)の諍いには、割り込むべきじゃねぇな…と、一人頷いていると、泣きそうになっていた眼鏡と視線が合った。
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