執事様の書棚

□涙は背中で語れ〜伍〜
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「ぎ、銀さぁ〜ん…」

手招きをすると這う様にやって来た。情けねぇ声を出すな――と溜め息を吐こうとしたが、再び白光が閃いた。

「何、してるんでィ。眼鏡」

先ほどの銀時と同じ様に、眼鏡新一改め新八の首筋に刃先が当てられた。

ひっ。

「聴こえてんかよ?」

「ちょい待てちょい待て!んなん突き付けられてたら喋れねぇよ」

チッ。

上擦った悲鳴に、沖田は舌打ちして刀を退いた。納刀しない事は、まだ其の意思は…らしい。

「八っつあんよ。彼奴等、何やってんの?」

「わ…」

「「わ?」」

「『渡る浪漫は牡丹と薔薇の涯』って昼ドラごっこだそうです…」

「…………何じゃい其れは?」

「見ての通り、昼ドラに在り来たりな小姑と嫁の確執ドラマだそうです。最終的に――」

「「喰らえっ!我等が秘技…っ!?」」

――ギャアアアアァァァァァァァァッ!

突如上がった断末魔に振り返れば、小姑(仮)と嫁(仮)が放った下からの回し蹴りが顎に見事に決まっていた。大きな体躯が、飛んでった。

「…和解した嫁と小姑が、小姑の結婚の妨害をする小姑の義理の父を打ち倒すって話だそうです」

「「何処が昼ドラァァァァァッ!?」」

ガシッ、と硬く握り合う嫁(仮)&小姑(仮)――神楽&妙の最強義姉妹に目眩がした。
沖田は、思わず刀を支えにする。銀時は、深い溜め息を吐いた。

「で、お前は気弱な夫か?新一君」

「僕は…忘れ物を取りにちょっと家に帰ってきただけなのに…」

泣き崩れる新八には、同情しかない。銀時は、肩を叩いて慰めた。
諦めろ。が、慰めになるかは分からないが…。彼の二人が、姉と同僚である時点で仕方がない――。

「あっ。サド」

「あら。銀さん」

ギクリ。

「よ、よう…」

「御邪魔してやす」

「丁度良かったネ。新八だけじゃ、キャストが足りなかったヨ」

「近藤さんもいやしたけど…」

「呼んでません」

そう――仕方がない。にっこりと微笑む二人を前に、逃げるなんて出来るはずもない。
男三人、引き攣った顔を互いに見合わせた。

「新八は、そのまんま優柔不断な夫で、サドが元彼。銀ちゃんが、小姑の秘密の恋人アル」

「じゃあ…イエティ捜索に行った冬山で、殺人事件に遭遇した時のお話にしましょうか」

「「「だから!どんな昼ドラだァァァァァァッー!」」」





銀時・新八・沖田は、最強義姉妹が満足するまで、昼ドラ『渡る浪漫は牡丹と薔薇の涯』ごっこを延々と付き合うしかなかった。





了。


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