若旦那の書棚
□他人の褌で取っても、勝ちは勝ち
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妙は、銀時の言葉に漸く顔を上げると、パチパチ瞬きを繰り返す。
「いやだ、銀さん。幾らなんでもあんな重そうな物、オネダリしたりしないわよ」
「さっき、高ェのが良い。って、自分で言ってたろうが?」
「ああ。此れを見てたから、つい言っちゃったんですよ」
コンコン。
妙の人差し指の爪の先には、小さなピンクい石が付いた指輪がひとつ。シンプルなデザインのプラチナリング。
御値段は、確かに『0』が六つも七つも付くような物ではないが。
――ウチの家賃の数ヶ月分はあんな…。
「お妙は、アレが気に入ったの」
「気に入った…と言うか、気になったんです」
――気になった…?
蔦のように細工されたプラチナが、ピンクの石を囲っている。
宝飾の類いが詳しい訳ではないが、細かな細工や宝石が何個も使用されているわけではない、極普通なリングに見える。
じっ…と銀時は食い入る。
「銀さん?」
――あっ…ヤベ。
「あー…否。そんなに気になんなら、其れこそ強請ってみりゃあ良いじゃネェか?」
「イヤです」
「んでだよ」
「指輪は…貰うには、特別な感じがするんです」
妙の眼差しは、珍しく年相応の少女に戻っていた。頬に仄かな朱を垂らし、長い睫毛を揺らす。天然の紅い唇が、緩やかに弧を描く。
「考え過ぎかな…とは思うんですけど…つい。
自分で買ったりとか、女友達からのプレゼントなら平気なんですけどね」
――なるほど。
何がなるほどなのか?――銀時は、神妙に顎を引くと、妙が未だに双眸を逸らさない其れに、同じように見下ろした。
豪華な照明を受けて輝く数々の装飾品。妙の気になったと言う其の指輪は、妙の黒真珠のような瞳が反射す光の分、一際瞬いている気がする。
「ふうん…。じゃあオメェは、店でも指輪は貰った事はネェんだな?」
「一応、頂きはするんですが、他の娘と交換したり、質に入れたり?」
銀時は、思わず眼をしばたたかせる。
――根っからのキャバ嬢だよ…。
「何ですかぁ〜?銀サン♪」
「あっれー?呼ばれてる?呼ばれてるみたいだわ。ちょくら行ってくるわ」
厳密に言えば、呼ばれてはいない。けれど、先程銀時が話をしていた女性店員の視線が此方へと向いている。銀時と目が合うと会釈してくれたのを幸いに、妙に背を向けた。
――もう。
肩越しに視線をやれば、柳眉を吊り上げ唇を突き出した表情が見える。銀時は、首を竦めた。
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