若旦那の書棚

□朱染めの言祝
2ページ/36ページ

 
 
「頭ぁ〜」

坂本が、呼ばれて振り返ると、部下が一人包みを抱えてやって来る。

「坂田さんちゅう方から――…」

「やっと来たがかっ!」

「ちょ…頭ッ!?」

「陸奥ぅー!今行くぜよォォォ!」

奪うように其の包みを手にすると、坂本は愛しの腹心を捜しに走り出したのだった。





「頭ァーッ!?立て替えた代引分払ってくんろォォォ!」










「喧しいわ。頭」

お目当ての腹心、陸奥は、坂本の根城で書類の山を積み上げていた。底光りする双眸で、駆け込んで来た上司を見据える。

「此れは、明日までじゃ。遅れたら殺ス」

「捜したじゃろがぁー!なしてこげな処おるんじゃあー!」

部下達なら、即踵を返す処だが、坂本は両手を上げて陸奥に飛び付いた。

ゲシリ。

「じゃあな。忘れるんじゃなか」

「…陸奥ぅ〜」

鳩尾に入った蹴りに悶えながらも、坂本は陸奥の肩に手を置いた。むっすりと肩越しに振り返る陸奥は、一瞥する。

「邪魔じゃ」

「おまんにプレゼントがあるんじゃ」

「決済した書類なら、有り難く頂くぜよ」

「此れじゃあ〜。早速開けてくんろ〜?」

フイっ…と陸奥の視線が戻るのに併せて、坂本は陸奥の正面に回り込む。ニマニマ顔で突き出されたのは、小さな白い小箱。陸奥は、眉間に皺を寄せ其れを避けた。

「何じゃ」

「早う、開けとうせ」

…他人の話を訊け。

「さあさあ」

目の前から消したかと思った塊が、頬に当たる。ガシガシガシ。陸奥の眉間の皺もこめかみの青筋も、見ずまま突き進む。今更ながら、何故此の上司の下にいるのか我ながら解せない…。

はぁ…。

「…此れを開けたら、仕事するんじゃな」

「絶対、陸奥に似合うきに」

「書類に判ば、押すんじゃな」

「ほうじゃ!わしが、アッチと一緒に此れも嵌め――」

ゴッ…。

「其のふぐり潰されたいんか」

「――すんません。ちゃんと仕事しますんで、此のプレゼント受けってくれませんでしょうか?」

――ったく…早うそう言え。

大事な身体の一部を押さえて蹲る坂本も見下しながら、陸奥は不承不承手元の小箱を見下ろした。赤いリボンが掛けられた白い小箱は、装飾の類いが入れられるビロード製。
するりと解いたリボンを指に絡め、蓋を開ければ――煌々輝く白金のリング。

想定内だ。





⇒次頁

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ