若旦那の書棚
□朱染めの言祝
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「頭ぁ〜」
坂本が、呼ばれて振り返ると、部下が一人包みを抱えてやって来る。
「坂田さんちゅう方から――…」
「やっと来たがかっ!」
「ちょ…頭ッ!?」
「陸奥ぅー!今行くぜよォォォ!」
奪うように其の包みを手にすると、坂本は愛しの腹心を捜しに走り出したのだった。
「頭ァーッ!?立て替えた代引分払ってくんろォォォ!」
「喧しいわ。頭」
お目当ての腹心、陸奥は、坂本の根城で書類の山を積み上げていた。底光りする双眸で、駆け込んで来た上司を見据える。
「此れは、明日までじゃ。遅れたら殺ス」
「捜したじゃろがぁー!なしてこげな処おるんじゃあー!」
部下達なら、即踵を返す処だが、坂本は両手を上げて陸奥に飛び付いた。
ゲシリ。
「じゃあな。忘れるんじゃなか」
「…陸奥ぅ〜」
鳩尾に入った蹴りに悶えながらも、坂本は陸奥の肩に手を置いた。むっすりと肩越しに振り返る陸奥は、一瞥する。
「邪魔じゃ」
「おまんにプレゼントがあるんじゃ」
「決済した書類なら、有り難く頂くぜよ」
「此れじゃあ〜。早速開けてくんろ〜?」
フイっ…と陸奥の視線が戻るのに併せて、坂本は陸奥の正面に回り込む。ニマニマ顔で突き出されたのは、小さな白い小箱。陸奥は、眉間に皺を寄せ其れを避けた。
「何じゃ」
「早う、開けとうせ」
…他人の話を訊け。
「さあさあ」
目の前から消したかと思った塊が、頬に当たる。ガシガシガシ。陸奥の眉間の皺もこめかみの青筋も、見ずまま突き進む。今更ながら、何故此の上司の下にいるのか我ながら解せない…。
はぁ…。
「…此れを開けたら、仕事するんじゃな」
「絶対、陸奥に似合うきに」
「書類に判ば、押すんじゃな」
「ほうじゃ!わしが、アッチと一緒に此れも嵌め――」
ゴッ…。
「其のふぐり潰されたいんか」
「――すんません。ちゃんと仕事しますんで、此のプレゼント受けってくれませんでしょうか?」
――ったく…早うそう言え。
大事な身体の一部を押さえて蹲る坂本も見下しながら、陸奥は不承不承手元の小箱を見下ろした。赤いリボンが掛けられた白い小箱は、装飾の類いが入れられるビロード製。
するりと解いたリボンを指に絡め、蓋を開ければ――煌々輝く白金のリング。
想定内だ。
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