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□純愛エゴイスト
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人気のない放課後校舎。
茜色の西陽が射し込む教室。
木製の床へと伸びる、2つの影。
長く伸びた影から聞こえる、荒い息遣い。
不規則に肩を揺らしながら、蠢く影が不自然に重なった。
「もう…いいだろ」
床へと組み敷かれた銀髪の少年が、乱れた息を肩で継ぎながら告げた。
対する、黒髪の精悍な少年は、苦しげに眉を寄せながら、掠れた声を引き絞る。
「…お願い、云ってよ。頼むから……」
「………ッ、」
震える声で、云い募る。
それでも、組み敷かれた少年は緩く、かぶりを振るだけで応じようとはしない。
「……お願い、獄寺───…」
語気は掠れて、巧く言葉にならない。
哀調を伴う声が、頼りなく震えて。
切なく歪んだ表情は、深い、哀しみが湛えられていた。
見上げた先に映る、近くて、遠い鳶色の眼差し。
こんなにも側に在るのに、何故か、手を伸ばしても届かないもののように思えた。
「頼むから…好き、って云って。じゃなきゃ俺、もう───…」
思い詰めた瞳が僅かに、翳る。
伏せた目蓋も微かに震えて、それでも、捕らえる腕は力強い枷となったまま退路を与えない。
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