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□純愛エゴイスト
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胸倉を掴んだまま、黒髪の少年を睨み上げる。
咎めるように、鋭く突き刺さる眼差しに耐え兼ね、目蓋を閉ざした。
互い、取っ組み合った痕跡を制服に残し。
千切れ飛んだ釦は、黄昏色に染められた教室の片隅へ転がっていた。
緩い諦念と共に、脱力する。
掴む胸倉を解放した指先は、力無く床へと堕ちていった。
そして、目許を覆い隠すようにして、小さく言葉を紡ぎ出す。
「…言葉なんて、なんの意味があるってんだよ……ッ」
「獄寺…?」
投げ遣りにも取れる口調で、吐き捨てる。
「無理矢理云わせて…てめぇの気が済むのかよッ!?……そんなの、全然───意味ねぇだろーが…」
「───…」
獄寺を捕らえる腕から、少しずつ力が遠退いていく。
遮断した視界にも、少年の苦悩がまざまざと伝わって。
獄寺もまた、複雑な想いが脳裏を渦巻いていた。
完全と桎梏が失われても、もう、逃げようとは思わない。
ここで突き放し、また曖昧な関係を平然と繕う事は出来ないから。
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