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□不夜城
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闇路の果てに光を望み

血に染まる切っ先で

硝煙を斬り裂いた…










体温が上昇し


感情が失速する


絡み付く血の匂いを疎んでは


高鳴る心音が狂宴に乱舞する…




「…山本っ…!!?」




名を呼ばれ、虚ろな視線を投げやれば

漆黒のスーツに返り血を纏った恋人が、息も絶え絶え走り寄る──



「…山本っ、大丈夫か…!!?」



着衣の漆黒とは真逆に、蒼白な顔で叫ぶ隼人は


血糊のこびり付いた指先で、そっと頬を触れた。



冷たい指先は微かに震えて、覗き込む瞳には涙を浮かばせていた…




…泣くなよ 隼人…

…頼むから 泣かないで…




安心させたくて、触れられた指先に手を重ねた。

掌滴る血液が生暖かくて、
隼人の冷たい指先が心地良かった…




「…山本…」




ぼんやりと意識を翔ばした俺を

再び呼んでは

隼人の白い頬に涙が伝う──



…だから 泣くなって



云い掛けた言葉を呑み込み


流れる涙を優しく拭った…




…温かい…




流された血液よりも、温かい涙に酷く安堵し、冷えた心の一部が再び芽吹き始めた…




「…山本、早く帰ろう…」



嗚咽を堪え、優しく微笑んでくれた獄寺…




そして俺は、先程から感覚を失う不自然な腹部へと、手を伸ばした。



白いシャツがドス黒く滲み

紅い彩りに染まる其処は




銃弾を見事に受け止め、撃たれた事実を物語っていた…





…そうだ 俺は

隼人を庇って…





痛みなんてない


寧ろ


隼人を護れたことに


誇りさえ感じる


それなのに


何処かが悲痛な叫びを訴える…


死が怖い訳ではない

そんな薄弱な心では

この背中は生きれない



数え切れない血を流し

数え切れない人間を斬った…



血糊のこびり付いた切っ先で、迷いを断ち斬り


血飛沫と血痕を礎に安寧を導き 誘った



祖国を捨てて


野球を捨てた


ただ 隼人を護りたくて


隼人と共に生きれたらと思った…



永遠なんて 幻想で


天道に背いては


理想郷を夢見た…



失っても
失えないものがある



真摯に追い掛け 求めたそれが

今も変わらず傍にある…




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