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□追憶の甘露
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それは とても晴れた日
僕は 未来なんていらないと思った
甘い 甘い 貴方との至福
神様 どうかこの刹那を永遠に──…
真夜中ふと眼が覚める。
(…病院…?)
明らかにいつもの自分の部屋でない、見慣れない景色に、
また過去の自分が、寝惚けてバズーカを誤射したみたいだ。
(…そうか、リング争奪戦で俺は…)
記憶の彼方で眠っていた出来事を思い出し、病院で目覚めた事の状況を把握した。
ふと、暗闇に眼を凝らすと──
「…ご、獄寺さんっ?」
ベッド脇の椅子に腰掛けたまま、足元で眠る若き日の獄寺。
サイドテーブルには、見舞いに持って来てくれた、積み木と飴玉。
あとは、幼き自分が食べ散らかしたタコ焼きの残骸…
あの頃は悪戯ばかりして、ボンゴレ氏に迷惑ばかり掛けては、アホ牛と罵りムキになる獄寺さんの気を引きたかった。
未来の貴方は、この時代のように傍にいない…
こんなに こんなに傍にいた──
怒らせてばかりだったけど、いつも貴方は優しかった。
…獄寺さん 知っていますか?
未来でも、貴方に貰った大切な想い出は
今も 昔も
ずっと ずっと大切なんです…
こうして時を越えると、自分と変わらない幼い顔。
──変わらない銀糸
──変わらない翡翠の瞳
未来の貴方は あの人のものだから
今の貴方なら
触れても いいですか?
そっと、銀糸に手を伸ばしてみる。
…柔らかい…
一度触れてしまえば、もっと求めてしまう衝動…
起こさない様、差し伸べた掌で、白い頬を触れてみる。
…温かい…
──睫毛 凄く長いんですね…
触れる度込み上げる切なさ…
…が ま ん
と、御決まりの台詞で自分に云い聞かせるが…
──山本さんっ、
「…ごめんなさい…」
そう小さく呟き、静かに若かりし獄寺の頬へと、口付けを落とす…
それでも、深い眠りの淵から戻らない獄寺の、今度は唇に…
──愛しさを込めた
口付けを届ける…
…甘い…
煙草の味が微かに混じる、甘い 甘い獄寺の唇。
影を落とす睫毛が少し震え身動ぐと、僅かに鼻先を掠める懐かしく甘い獄寺の香り…
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