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□失愛MONOCHROME
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現実味のないリアル世界を滑り落ち。置き場所のない哀しみと、遣り場のない絶望を奥底に抱えたまま一年の月日が経った。



足許から立ち昇る深い虚無と悲哀。擦り切れた精神へと救いの手を差し伸べてくれた男。

崩れそうな意識の破綻を支え、絶対的な誓いに俺を繋ぎ止めてくれた存在。



あの夜から始まったγとの関係。未だ癒える事ない胸憶の傷痕ごと、γは俺を受け入れ愛してくれている。



奴の前で無意識と剥がれ落ちた虚飾。
徐々に薄れていった肌合いの違和感。



忘れ難い男の面影を俺の爪痕に察しながらも、γは相変わらず何も訊きはしなかった。



『傷付いた自分を恥じる事はない。あんたの傷を癒してやれるかは解らないが…、同じ傷を持つ人間と慰め合うってのも案外悪いもんじゃないぜ』



そう云って、奴は少しばかり追憶の果てへ意識を返したのか、遠くを見る目に微苦笑を刻み呟いた。



互い過去を詮索したりはしない。例え昨日だとしても、瞬く一瞬の向こうでさえも、俺達には遠い過去であり未来なんだ。



永遠が照らすその一瞬に意義が存在するのなら、俺達は他に何も必要としない。



目の前の現実が真実なら、それが全てと思う事で生きて行く事しか、過去に囚われぬ術が見当たらないから…。



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