〜ビスマルク海戦〜
ゲーム理論は軍事戦略家にも魅力があった。第二次世界大戦でも使用されている。
優れた司令官は敵の動きを予測してそれに応じた作戦を立てる。
結局戦争は一方が勝てば一方が負けるというゼロサム・ゲームである。
ルート選択による勝敗、これはSFにも共通する。

さて、状況を説明しよう。
時は1943年2月、連合軍は諜報部から日本軍がニューギニアのニューブリテン島近くで増援のために輸送船団を結成したことを知った。
プレイヤーは2人。連合軍南太平洋方面司令官ケニー将軍と日本軍今村均大将である。
ケニーの任務は輸送船団の撃滅、今村の任務は最小被害で目的地への輸送である。
ここで二人は2つの策のうちひとつを選択しなければならない。
今村は船団の進路をニューブリテン島の北か南に決定する。
どちらも所要日数は3日だが、北側のほうが降雨による視界不良が予想されれ、南のほうが天候がよさそうだった。
もちろん今村の関心はケニーに迎撃される可能性を最小限にすることである。

一方ケニー将軍は今村の選択するルートを探知する目的で、偵察機を南北どちらに集中させるかを判断しなくてはならない。
偵察機を北へ多く向かわせた場合、今村がどちらに進路をとっても発見までに少なくとも1日を要し、爆撃を行えるのは2日間。
南に集中させた場合、今村が南に進路をとれば3日間爆撃を、北に進路をとれば1日間しか爆撃できない。

こんがらがってきただろうか。
それでは分かりやすく表にしてみよう。
整理すると1日の爆撃は日本軍にとっては有利であり、2日は良いとはいえないが中間、3日は最悪である。
ここでは利益差を爆撃日数で表におこすと分かりやすい。


選択肢はもちろんこうなる
ケニー@北側を偵察A南側を偵察
今村 @北側を進むA南側を進む

   ケニー
| A | @ |
| 1 -1 | 2 -2 |@今村
| 3 -3 | 2 -2 |A

ケニーにとってプラスで表示される爆撃日数(左側の数字)は、そのまま今村のマイナス(右側の数字)になる。

まずケニーから見てみよう。
北側に偵察機を送った場合今村がどちらのルートをとっても爆撃日数が2日になっているのがお分かりだろうか。
一方南側を偵察させるのはリスクがある。今村が南側に進路をとれば3日間爆撃でき最大の戦果を得られるが、北へ進んだ場合戦果は最小になってしまう。
いちかばちかに掛けて南を偵察させるか、確実な利益をもたらす北を偵察させるか。
ちなみに北を偵察させれば2より小さくなることが無い。
これをゲーム理論では「マクシミン(最小の最大値)」という。
損失を少なくする基本的戦略である。
この海戦の場合、基本的にケニーが有利なのでいずれにしても利益を得られるが、できるだけ戦果をあげたい。

では、つぎに今村の選択肢を見てみよう。
ケニーの利益とまったくの対称だが、現実では連合軍が有利なため、今村の選択肢はいずれもありがたいものではない。
どの進路をとっても損失はある。今村の目標はその損失を最小に食い止めることだ。
ゲーム理論では今村の戦略を「ミニマックス(最大の最小値)」という。
敵の最大利益をできるだけ小さくする、言い換えれば自分の最大損失を最小にしようとするのである。
表を見て欲しい。今村の観点からすれば北側を取って損失を-1あるいは-2にするか、南側を取って-2か-3にするかである。
今村の最善の戦略はミニマックス戦略を使い、北側ルートを選択することだ。
これならケニーが南側を偵察してくれれば-1で済む。

実際はどうなったか。
ケニーと今村はマクシミン戦略とミニマックス戦略をとった。
ケニーは今村のミニマックス戦略にもとづいて北側を進軍してくると予想し、北側を偵察したとも考えられる。
結局このビスマルク海戦で日本軍は南太平洋の戦いにおける最大の敗北を喫し、軍艦10隻、輸送船12隻、15000名の兵士を失った。
だがどちらの指揮官も判断ミスはしていない。
ケニーが南側を偵察していれば爆撃日数は1日になっていたし、今村が南側ルートをとっていても爆撃日数は2日だった。
もし双方が南側ルートを選択していたら3日間も爆撃が続き、日本軍の損害はもっと大きくなていた。

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