テキスト

□その、理由
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甘い、その空間。
外界を遮断したソコはふたりだけの密度の高い世界だ。


がり、と空気に似つかわしくない音が木霊する。
「…ぃ、てえ」
海堂にとっては毎度のことで、さして驚きもせず小さな声で抗議した。
「…あ、ごめん。」
はっとした様子で越前は歯を立てた首筋に舌を這わした。


越前はいつもこうだ。
興奮すると噛み付く癖があるらしい。無意識なあたり、質が悪い。
おかげで海堂の身体はキスマークよりも歯形が多い。犬歯が引っ掛かって軽い切り傷の様になっているところもある。


「その癖。どうにかなんねぇのか」
「…だって、どうしようもないんだもん」
言った側から噛み付いてくる越前に、海堂はふと以前読んだ雑誌に書いてあったことを思い出した。


「……だからか?」
「え?何が?」


『オスの猫は交尾中、相手に噛み付きます』


(…あとでコイツに猫耳ないか調べるか?)
噛み付きに夢中になっている越前の頭を撫でながら、半ば諦め気味にぼんやり考えた。

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