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□てぶくろ
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「う〜…寒い…」
吐き出す息は白く、手先は冷たく悴む。
なぜ今日に限って手袋を忘れたのだろう。自分の不甲斐なさに、海堂は苛立ちを覚えた。
「先輩せんぱい!海堂先輩ってば!」
「……………なんだ居たのか?」
海堂は寒さのあまり、一緒に帰っていたリョーマの存在を忘れていた。
「…ヒドくないスか、ソレ。」
「あぁ、悪い悪い。あんまり寒くて、な」
手に息をかけて、いかに寒いかをアピールする。
「だって先輩、手袋してないじゃないスか。それじゃ寒くて当然でしょ」
そう言うとリョーマは自分の手袋の片方だけ海堂に渡した。
「あ?なんだ?」
「貸しますよ。はい、どーぞ」
「かたっぽじゃ、意味ねぇだろ。お前も寒くなるしよ…」
リョーマは受け取ろうとしない海堂に強引につけさせ、笑った。
「コレで良いんスよ」
きゅっと小さなリョーマの手に、海堂の手袋のない方の手が包まれた。
「…っば、ばか、離せよ!」
「あったかいから良いじゃないスか♪」
「〜〜〜…っ仕方ねぇな…」
何だか胸がジンとして、同じ様に握りかえした。

お互い冷たい、手袋のない手。
それがやけにあったかく思えたのは、冬の魔法のせい。

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