テキスト
□近い体温、遠い存在
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後悔、の一言だった。
見てはいけないものを見たときとは、こんなにも思考が遮断されるものなのか。
ただ、息をのんでその一部始終をありありと瞳に焼き付けた。
「…っふ」
目の前に拡がる光景は、自分のジャージを噛んで声を押し殺す淫らな海堂の姿だった。
(どう…しよ…)
越前はただ、忘れ物を部室に取りに来ただけであった。
職員室に寄って部室の鍵を取りに行ったがまだ残っている生徒がいるとのこと。
遠回りした、と内心イラつき部室の扉に手をかけた。否、正確にはかけようとした。
甲高い喘ぎ声がきこえたからだ。
誰、だ。
まずそれを思った。
甲高いといっても、男の声だ。
当たり前だ、男子テニス部の部室なのだから。
あのメンバーだと誰かが女を連れ込むとも考えにくい。
じゃあ、
そこまで考え、扉をわずかに開ける。
ただ目の前には、越前が忘れたシャツを顔にあてて自慰をする海堂がいた。
腰が揺れて透明な蜜がぽたぽたと床に落ちている。
時折喘ぎに混じって越前の名を呼んでいたが、意味など考えたくなかった。
あの海堂が、部室で、こんなことをするなんて。
何故どうして、と考えが回ってパンク寸前だ。