テキスト

□放課後
1ページ/1ページ

スラスラと滑らかにノートの上をすべるボールペンを目で追いつつ、越前は海堂を盗み見た。
長いまつ毛にしゅっとした眉毛。意思の強い瞳に、ぽってりした厚めの唇。
好きだと告白して、付き合って、恋人としてすることはかなり飛ばして済ませた。
それでも足りない。めちゃくちゃにしたい。

部活のない日には、海堂の教室に迎えに行って、一緒に下校だってする。今日は日直だったらしく、日誌を丁寧に書いている海堂を、前の席に腰掛け眺めている。
教室を見渡せば、ピカピカの黒板にピッタリそろった机と椅子、床にはもちろん埃一つなかった。
綺麗好きの海堂らしい。何にしても妥協は出来ない性格なのだ。
そういうところもたまらない。たまらなく乱してしまいたい。

普段からワックスなどつけない海堂の髪に触れ、撫でた。耳に髪をかけ、ふっと笑いかける。
寄った眉根が途端に困惑と恥じらいでハの字になるのが愛しい。ゆっくり唇を近づければギュッと目をつぶり不器用に唇を突き出してくる。
軽く唇を付けて、離して、目を恐る恐る開ける海堂と至近距離で見つめ合う。
視点が定まり切らない海堂に再び微笑みかけて、今度は深く唇を重ねた。
柔らかく、弾力があって、滑らかで、実は越前と付き合い始めてからリップクリームを頻繁に使っているのを越前は知っていた。
越前のために整えられた唇だと自惚れているが、そう思うとより一層いじらしく可愛らしい。
海堂の顎に手をかけて、少し下げると従順に口を開く。ぬるりと舌を差し入れ、縮こまった海堂の舌と絡ませる。
わざとらしく水音を立てて海堂の羞恥心を煽る。くぐもった海堂の声と遠慮がちに押し返してくる腕に気を良くし、一旦唇を離した。
つぷ、と糸が引いて海堂の唇が濡れている。唇だけでなく、だらしなく顎まで濡れてしまっている姿を見て、ゾクゾクと嗜虐心が頭を擡げてくる。
とろりとした瞳は、越前に知らず知らず先をねだっている。

「海堂先輩、舌、だして」

言われるがまま、舌を出して待つ海堂の鼻先に軽くして、面食らっているところに舌を絡めた。チロチロと擽るように側面を舐めると、焦れた海堂が机に身を乗り出して、越前の両頬を包んで必死に絡めてくる。
舌を吸って、絡めて、唇を舐めて、また絡めた。
もじもじと両膝を摺り合わせている海堂に気付かないフリをして、越前はもう一度唇に触れるだけのキスをすると、優しく微笑んで、囁いた。

「オレの、舐めて」

海堂は一瞬躊躇ったが、唇を噛むとヨロヨロと床に膝をついた。
椅子に腰掛けている越前の膝に手をついて、歯でカチリとズボンのチャックを噛んで、途中引っかかりながらもなんとか下げていく。
下げ終わると、息を荒くし、涙目でキツく呆けている越前を睨んだ。
以前に冗談半分で教えたことを嫌がりながらもしてくれるあたり、海堂はかなり越前のことが好きらしい。
労うように、汗で張り付いた髪を優しく撫でた。そして少し乱暴に引き寄せ、海堂の頬に熱を持った猛りを押し当てた。

「そんな怖い顔しないでよ。…好きっスよ、海堂先輩」

その一言で険のある表情はなりを潜め、顔を赤らめて、モゴモゴと声にならない声を出している。
意を決したのか、すり、と下着越しに頬を摺り寄せて、唇を付けた。
下着を下ろし、どくどくと脈打つ熱を渋々舐めた。
キスとは違い、乗り気でないのがすぐにわかるが、それでも懸命に唇を当ててくる。
何度か口を開けたり閉めたりして含もうと試みているが、ちくしょう、と文句を吐き捨て出来ずにいる。

「別に無理しなくていいっスよ、先輩フェラ嫌いでしょ」
「…やる」
「嫌々されてもオレも萎えるっス」
「男に二言はねえ」

口を大きく開けて、海堂は一気に頬張った。
短く息を吐いて、青ざめて涙目になっている姿は、興奮するよりやはり萎える。
再び髪を掴んで離そうとするが、睨まれて拒まれた。

飲み込みきれない唾液が海堂の唇からぽたぽたと落ち、床を汚していく。
海堂は渋い顔をしながら頭を上下に動かしはじめた。じゅぽじゅぽと音だけ聴けば官能的であるのに、今にも噛まれそうなほどに睨まれながらされても微妙だった。

「…先輩もういいっス」

海堂が頭を上げたタイミングで髪を掴んで離した。
噎せている海堂を撫でようとするが、思い切り払われ、再度口に含もうとしていた。

「いや、先輩いいって…」
「…き、なんだ、俺だって」
「え?」
「てめえのことが好きだって言ってんだ!」

二度も言わせるな!と言い、これでもかというほど顔を赤くしていた。
ぞくり、越前の背筋が震えた。
海堂は越前の嗜虐心を煽ることに非常に長けていた。

「ふぅん、そう」

舌なめずりをして口を歪めて笑う越前に、海堂もまた思い出したように膝を摺り合わせた。
再三髪を掴み、ぐいっと熱を口元に擦り付けた。

「痛くされるの好きだもんね、かいどーせんぱい」

違う、と開けようした口に、無理やり熱をねじ込んだ。
そして海堂の息が整う間もなく、頭を乱暴に動かした。
先ほどと違うこと言えば、海堂が睨むことをせず、キスのときのようにとろりとした表情をしていることだった。

「違わないじゃん。ヘンタイ」
「んぐ、…っ」

グッと頭を深く固定し、一気に引き上げた。
どろりと海堂の口から制服にかけて白濁が垂れている。
生理的に流れる涙、乱れた髪に、整わない呼吸。唇からは唾液と白濁が垂れ、パリッとした制服と床を汚していた。

その光景に越前は更に昂ぶって、ごくりと生唾を飲んだ。
海堂の手を掴み立たせ、机にうつ伏せにする。
肩越しに不安と僅かに期待を孕んだ瞳で海堂が見つめてくる。

「あ、海堂先輩、リップクリーム貸して」
「は、なんで…」

海堂の返答も待たず、遠慮なしに鞄からリップクリームを出した。
リップクリームと言っても、ボトル容器に入っていて容量がたくさんあるもので、それを指にたっぷり取り、器用に空いている手で海堂のベルトを外し、ズボンを引き下ろした。
流石に察した海堂が、身をよじり越前の手を掴んだ。
優しく微笑んで、下着越しに熱を押し当てて擦り上げた。

「ひぅっ…」
「挿れないほうがいい?別にオレはこれでもいいけど」

布との摩擦でもどかしい熱さに逃げようとする海堂の腰を掴んで擦り上げる。
その度に海堂は切なそうな声を出し、掴む手から力が抜けて、観念したように震える指が机の端を掴んだ。
それを了承と取り、下着に手をかけ引っ張った。期待からかひくつくそこに先ほど取ったクリームを塗りつけ、浅く指を入れた。何度か越前を受け入れたそこは歓迎するかのように吸い付いていやらしく音を立てている。

「きこえる?やらしー音。」

指を根元まで入れれば、より一層音を立てて、性感を煽った。
熱くうねる媚肉が越前の指をきゅうきゅうと締め付けてくる。
甘い誘惑を振り切るようにわざとらしく音が立つように指を引き抜き、机に散らばるボールペンを手に取った。
不安げな表情でまさか、と顔を青ざめさせている海堂に、口元を歪めて見せつけるように先ほどのリップクリームをボールペンのペン尻にたっぷり付けた。
つぷ、と喪失感で戦慄くそこはたやすく受け入れ、冷たく硬いペンを馴染ませようと健気に飲み込んでいく。
指とは違う無骨な動きで予想していない箇所を掠められ、海堂はその度身体を揺らした。

「楽しそうっスね、先輩」

無遠慮にもう一本転がっていた赤いペンを差し込めば、かちゃりかちゃりとペン同士が擦れる。
海堂は羞恥で身をよじるが、より擦れる音が響いて逆効果だった。
口を抑えて声が漏れないようにしている様がいじらしいが、抽送を繰り返せば、受け入れやすいように腰を高くして身体を預けた机が派手に動いた。
清廉でともすれば潔癖と言えるような海堂が快楽を求める姿に、昏い喜びと昂りを覚える。
ペンをおざなりに引き抜き、床に投げ捨てた。戸惑う海堂に覆いかぶさり、鼻先で髪を掻き分け、その柔らかいうなじへと噛み付いた。
まるで獣のようだが、衝動が抑えられなかった。およそ性行為とは言えない乱暴さだが、それでも海堂はその鋭い痛みを性的な喜びに変えて漏れる甘い声を必死に抑えている。

「…たぶんオレと先輩、すごい相性いいと思うっス」

耳たぶを甘噛みしながら囁けば、意味がわからないと振り向く海堂と視線が絡む。
夕空に染まった瞳がひどく扇情的で、情欲の灯をともして揺れていた。


グランドから聞こえる運動部の掛け声や、校内のどこからか鳴り響く吹奏楽部の演奏が、別世界のように思えてくるほど現実感のない倒錯した空間だった。
この場でただひとつ現実的な感覚をもたらすのは海堂だけであった。


ぬるついた先端をあてがえば待ちわびていたように受け入れ、海堂は背中を震わせ、満たされたようにそっと息を吐いた。
なじませるように浅い律動を繰り返せば、先走りとクリームが混じり、奥へと誘い込まれていく。
先ほどつけた真新しいうなじの噛み跡にもう一度噛み付けば、必然的に深くなる挿入と噛まれた痛みに海堂は背を反らせ、白濁に濡れた欲を吐き出した。
くたりと力を抜き息を整える海堂のうなじを舐め、緩く腰を動かした。

「っ…ん、えちぜん」

漏れる甘えるような吐息混じりのあまやかな声が、越前の理性を焼き切る。
細く引き締まった腰を掴んで乱暴に揺すり、その声に溺れていった。


がたり、がたり、と机が騒がしく音を立てる。
声を抑えていた手は不安定に揺れる机にしがみついて。
放課後の、誰に知らせるでもないチャイムに嬌声が合わさって。
埃ひとつなかった床には書きかけのノートとボールペンが散乱し、新しい染みが落ちて広がって。

それは目眩がするほど、どろついて、甘く、淫らな光景だった。


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ