テキスト

□おめでとう
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冬休みに入っても部活は当然のようにある。
それがどんなに世間が浮かれている日であろうと。

12月24日、練習中でもどこかそわそわと落ち着きのない部員達に喝を入れ、海堂は独特の溜息を吐いた。
その中でも平素と変わらず飄々としている越前は流石だと思う。

(誕生日のくせによ)

それを知ったのは本人から教わったわけではなく、すでに引退した菊丸と桃城がサプライズパーティーの計画をしていたからに過ぎない。
クリスマスと合わせて盛り上がりたいのだろう。彼等がいなくなった寂しさを感じているのは皆同じで、それは先輩達も変わらない。
海堂まで気が緩みそうなのは雰囲気に当てられてか、久しぶりに集まれる喜びを感じてか、しかし部活中にそれを考えている場合ではない。遠い空の下にいる手塚に示しがつかない。
唇を引き結んで集合をかけた。


部活が終われば輪をかけて浮き足立って、皆一様に笑いを隠し切れずニヤニヤとしている。
部室には不在の手塚以外の先輩達が揃って今か今かとクラッカーを鳴らそうとしているのだろう。

「…なんか今日みんな変じゃないっスか」
「は、はあ〜!?んなことねーよ!なー、マムシ!」
「俺に振るんじゃねえ」
「桃先輩はともかく、海堂先輩もおかしいっスよ。そわそわして」

変に勘がするどい。そして『ともかく』扱いされた桃城がうるさい。
透き通った瞳が訝しげに細められ、居心地が悪くなる。

「…まあ、いいっスけど」

スタスタと先を行く越前に、ホッと胸を撫で下ろし、横でセーフのポーズをとっている桃城に肘鉄を食らわせた。

越前がドアを開ければ、盛大なクラッカーの音と、おめでとうという部員と先輩達からの祝福、後ろから駆けつけた桃城と菊丸にもみくちゃにされている。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔できょとんとしている越前に、誕生日だろ、と小さく言った。

「ああ、なんだ、そういうこと…」

なんだとは何だ、と部員総出で茶々を入れる。照れているのか、越前は帽子を目深に被り直し、どーも、とぽそりと呟いている。

ケーキを食べて騒いでひとしきり済んだところで、場所を移して今度はクリスマスパーティーをすることになった。
海堂は部室の片付けを引き受け、申し訳なさそうな顔をする部員を送り出し、一転して静まり返った室内で一息つく。
騒がしいのは苦手だが、やはり活気があるのは楽しくなる。

ガチャリと部室のドアが開く。一年が気を使って戻ってきたのだろうかと目をやれば、一年は一年でも全くそんな気はないであろう越前がひょこりと現れた。

「海堂先輩、行かないんスか」
「お前、主役だろ。さっさと行け」
「だって次クリスマスパーティーでしょ。」

しゃあしゃあと言いのける越前は、海堂にならってケーキの紙皿を回収している。

「ねえ、行かないんスか?」
「片付け終わったら、顔くらいは出す」
「ふーん」

越前から受け取った紙皿や紙コップをゴミ袋に入れ、濡れ布巾でテーブルを拭く。
越前を見れば、床に散らばったクラッカーをほうきで掃いている。随分と気が利くようになったものだと感慨深くなった。

「終わったけど」
「ああ、…助かった」
「別にいいっス」

そこから動こうとせずじっと見つめてくる越前に、海堂は妙に緊張してしまった。軽く咳払いをして、あー、なんだその、と中々切り出せない。

「…とっとけ」

意を決して、頭にポンとラッピングされた袋を乗せる。

「なに、これ」
「プレゼントだろうが」
「海堂先輩が?俺に?」

マジマジと袋とこちらを交互に見比べてくる越前に耐えきれず、いらないなら返せと毒づく。

「いらないわけないじゃん。…さんきゅ、先輩」

ふにゃりと笑う越前に、いよいよ背中を向けた。
背後では鼻歌交じりで袋を開けている音がする。
相手の反応を待つこの瞬間が一番緊張してしまう。

「リストバンド…」

可か不可なのか、表情が見えない今判断がし辛い。
越前のトレードマークとも言えるブランドのリストバンドの色違いを選んだのだが、はたして。

「海堂先輩!」
「うおっ」

勢い良く体当たりされ、よろける。
珍しい越前の行動をどう取っていいのかわからず、両手がさまよう。

「嬉しいっス」
「そ、そうか」
「ねえ、つけてもいい?」
「好きにしろ」

喜んでいることにホッとして振り返れば、早速手首につけてしげしげと眺めている。
何も珍しいものでもないのに、そうまでされると気恥ずかしい。
目が合えば、柔らかく微笑まれ、いよいよこの場の空気にいたたまれなくなってきた。

「先輩、はやく行こ」

リストバンドをした方の手で腕を掴まれ、グイグイと引っ張られる。
機嫌良く揺れるリストバンドに、聞こえないほど小さく「おめでとう」と呟いた。

end

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