テキスト

□テスト
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テスト期間中、部活は基本的に休みになる。
もちろん自主的に練習をすることは黙認されるが、学業を疎かにすることは出来ない決まりらしい。

「そういうのよくないっスよね」
「いいから黙って勉強しろ」

越前とコートで打ち合うことを条件に、家にまで勉強を教えにきてくれた海堂は、眉間にシワを寄せて睨んできた。
こわいこわい、と国語のプリントに目をやるが、『このときの登場人物の気持ちを答えよ』などと難題をふっかけてきている。

「そんなの本人にしかわからないっス…」
「屁理屈言うな、そういうものなんだ」

こんなもの、勉強の仕様がない。
早々に諦めた越前は、ジッと海堂の横顔を見つめる。
筋の通った鼻に、ツンと尖らせたふっくらとした唇、シャープな顎から喉仏にかけてのラインがいやに艶かしい。
こくり、と喉を鳴らして白く滑らかな首筋に唇をつけた。

「っおい、こら!」

突然のことに戸惑う海堂の隙をついて、半ば強引に体重をかけて押し倒した。
海堂は、舌打ちをして小さく唸って溜息を吐いて、少しだけだからな、と真っ赤な顔で消え入りそうに呟いた。

啄ばむように唇を重ねるが、恥ずかしそうに顔を背けられた。それでもお構いなしに眼前に晒された形のいい耳に唇を寄せる。
耳たぶを軽く食めば、ビクリと海堂の身体が揺れた。気を良くしてそのまま耳輪の形に沿って舐め上げ息を吹きかけた。

「っ…」

勢い良く耳に手を当て隠されてしまった。もう少し堪能したかったと残念に思うが、今度は耳に当てた手の甲に何度も口付けた。
肩を竦ませるが、しばらくすると観念したのか、恐る恐る手を外し所在無さげに閉じたり開いたりしている。
汗ばんだその手を掴み、指を絡ませる。海堂本人は気づいていないが、海堂は越前の指に酷く従順で、こうしてしまえば乱暴に振り払うことはない。
緩やかで、絶対的な拘束だった。

再度耳元に唇を寄せ「かわいい」と囁き、真っ赤になり熱を持った耳たぶを舌でねぶった。
羞恥でじわりと海堂の瞳に透明な膜が張っては流れる。嫌悪からではないそれは実に甘そうに思えて、舐めてみるがやはりそんなことはなかった。

「ねえ、涙ってそのときの状態で味が違うらしいっスよ」
「は、はあ…?」

困惑している海堂をよそに、気持ち良いときはときびり甘ければいいのに、とぼんやり思った。
例えば、今首筋に伝っているこの涙が、甘ければ。
越前は海堂の首筋に舌を這わす。
ただでさえ、魅力的なのに、これ以上になったら。

「っっいってえ!」

濃密な空気を掻き消すように空いている方の手でバシバシと小気味いい音で背中を叩かれて、越前はきょとんと威嚇する猫のような海堂を見た。

「なんスか」
「なんだじゃねえ!いつもいつも言ってんだろ!噛むな!」
「あー…」

ばつが悪そうにくっきり歯型がついた海堂の首筋から目を逸らす。
癖なのだから海堂こそ慣れてほしい、そんなことを言ったら口を聞いてもらえなくなりそうだったので、越前は黙った。

「ここまでだからな」
「えっ!?」
「え、じゃねえよ!さっさと勉強しろ!」

あんまりすぎる、据え膳食わぬは男の恥だ、と海堂に抗議したら「余計な日本語覚える暇あるなら勉強しろ」と睨まれてしまった。
渋々先ほど投げ出した国語のプリントを手に海堂先輩のケチ、と唸る。
ひりつく首筋を抑え、海堂は不貞腐れている越前を横目に見て、小さく呟いた。

「…たら、…しても、いい」
「え?」
「国語のテストで、平均的以上取れたら、…噛んで、続き、して…いい…」


海堂は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔、というのはこういうことかと越前を見て思った。
そして、後日テスト用紙を持ってにじり寄る越前の鬼気迫る様子に、早まったかと後悔した。

end

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