テキスト

□こたつイブ
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12月というのは、忙しなく、街中華やかで、寒いのに笑顔でいっぱいで、それはきっと自分達も例外ではない。
笑顔でいっぱいかどうかはさておき、確実に浮き足立っているのは間違いない。

さむさむ、とみかんをたくさん入れたカゴを手に、越前はカルピンを引き連れてこたつのある居間へとやってきた。
そそくさと背中を丸めてこたつに入り、冷えた足先を海堂の温まった足に絡ませてきたので、軽く小突いた。それでも幸せそうに口元を弛めるのだから、12月の力はすごいものだ。


付き合ってはじめての12月、越前に招かれて海堂は、越前の誕生日前日独占権を手に入れていた。
1日中テニスをして、休憩時にはカルピンを触らせてもらって、会話の切れ目に唇を合わせるだけの軽いキスをして。
途中で海堂はこれではいつも通りなのでは、もう少し気の利いたことをと思ったが、唇を離して頬を上気させて瞳にうっすら涙の膜をはる越前が幸せそうにはにかむのをみて、肩肘を張る必要はないのだと力を抜いた。


こたつでまったりと過ごしながらみかんを剥いていると、越前がじっとこちらを見つめてくる。
主に海堂の手の中のみかんに対して。


「ねえ」
「やらねえぞ、自分でむけ」
「手、寒くてこたつから出せない」

あ、と口を開けて雛鳥よろしくみかんを待っている。
無視して自分の口に入れると、「オレ、誕生日イブなんスけど」という謎の非難を浴びた。
じとっと見つめられたあげく、こたつの中ではツンツンとつま先で突つかれ、仕方なく口元に持っていくと、今度は口を閉じられた。


「白いのも取って」

目を細めて嬉しそうに笑うのは、海堂が怒るポーズをしても結局折れて甘やかすことを知っているからだ。
読まれていることに観念して、ため息を吐きながら渋々といった体で取っていく。


「その白いの、アルベドって言うらしいっスよ。栄養もホーフなんスよね」
「知ってんなら食えよ…」
「ヤダ」


待ちきれないのか、こたつの中の足はパタパタと揺れて、気まぐれに海堂に触れてはなぞったり離れたりを繰り返している。
一粒取り終わったところで、越前の唇に押し当てる。行儀が悪いのは重々承知しているが、ちょっとした意趣返しだ。
きょとんと目を瞬かせたが、すぐに唇を緩めてみかんを招き入れた。


「ぬるい」
「そりゃそうだろ、嫌なら筋ごと食え、そもそも自分でむけ」
「ヤダ」


越前が楽しそうに文句を言っている間に2、3粒食べていくと、ずるい、オレにも、と再度口を開けて催促された。
こちらも文句を言いながら、また丁寧に筋を取り、体温が移ってぬるくなったみかんを口元まで持っていく。
殊更大きく開いた唇が、みかんごと海堂の指を食んだ。
色気も何もなく、数回甘噛みされただけで特に反応のない海堂にすぐに飽きたようだった。
今度こそみかんだけを唇に挟んでもぐもぐと咀嚼している。


「もっと驚いてよ」
「いや、猫みてえだから、怒る気がなくなった」
「猫は柑橘類嫌いっスよ」


そういえば先ほどからカルピンはこたつの中から出てこない。
足が触れない絶妙な距離感を保って寝ているようだった。丸まったところが見れるだろうかとそわそわしていると、まるで心を見透かしたように越前が呟く。


「…猫がこたつで丸まるって、嘘っスよ。伸びきってお腹見せてるし」


尚更見てみたいが、越前がにゃあと鳴いて唇を開くので、酷い矛盾を感じながら構われたがりな大きな猫に、みかんをむく手を止められずにいた。


end

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