テキスト

□葡萄味
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※オカルトのような電波のようなパロのような内容ですのでご注意ください



新生活にも慣れ始めた5月、連休に、柔らかくなった空気とぽかぽかした気候でだらけがちになるが、海堂はそれどころではなかった。
嵐の様な新入生に、プライドをへし折られ、何もかもが乱されて、今にいたる。

休憩を告げる声を聞き、それでも時間が勿体無く走りこもうとしたところをオーバーワーク気味だと止められた。
休んでいる間にも差を広げられている気がして落ち着かない。苛立ちを隠せないまま少し離れた日陰になっている木の下を目指す。
先輩達の目がなければ懸垂できる。パキリ、小枝を踏み鳴らすと、あ、という声と共に、目下海堂のぶち倒したい相手である越前が先客としてそこにいた。
愛飲している炭酸飲料を片手に木陰で涼んでいる様は、悔しいが絵になる。
舌打ちをして踵を返そうとするが、とっさに伸ばされた越前の手に袖を掴まれてかなわない。

「別に、ここにいればいいじゃん」

『何で貴様と』、『先輩には敬語を使え』、『袖を引っ張るな』、様々な文句が喉までせり上がるが、「ん」と越前が隣りをぺしぺしと叩くのに素直に従ってしまった。
腰をかけてはっとするが、すでに前を向き特に何を言うわけでもなく炭酸飲料を喉に流し込む越前に毒気を抜かれて、少し力を抜いた。
お互いに仲良くもなく無愛想で、沈黙するしかなかった。
何か言われれば突っかかることはできるが、こうも無言でいられるとどうしていいかわからない。
必ず倒すとは思っているが、だからと言って憎いだとか嫌いだとかではない。
生意気だが後輩として可愛がってやりたい気持ちは多少はあるし、一プレーヤーとしては尊敬すらしている。
わざとらしい咳払いをし、話題を探した。


「…そればっかりだな」
「ああ、これっスか」
「好きなのか」
「あー…まあ」
「……そうか」


再びの沈黙だった。全く話が膨らまない。
別にもう話しかけなくてもいいのではないか、無理はよくない、これこそオーバーワークだ。


「うん。オレ、吸血鬼だから」


海堂は大分疲れているらしい。話の脈絡どころか内容すら理解出来ない。なんの話だったか思い出しても頭を捻るばかりだった。


「帰国子女は大変なようだな」
「先祖返り、って知ってます?それみたいで」


会話のキャッチボールが出来ない。
いや、海堂達からしたら会話のラリーの方が馴染み深いだろうか。
話についていけず、現実逃避のようにどうでもいいことを考え出す。


「血の代替え品ってトマトジュースのイメージあるじゃないっスか?オレとしては見た目より味重視っていうか」


葡萄酒を血に、ってありますし、といつの間にかにじり寄ってきた越前に身体を引いた。
そんな吸血鬼あるあるは知らないし、いつも眠たげだったり伏せがちな目を試合の時のように爛々と輝かせているのが何だか恐ろしい。いつもあまり口を大きく開けない越前の八重歯がちらりと覗く。片方だけ犬歯が鋭い気がする。
いやいや、そんなまさか。
後輩のタチの悪い冗談を鼻で笑うことが出来ないのは、海堂がオカルトの類を苦手としているからで、越前の唾液に濡れた真っ赤な舌が尖った犬歯を舐めているからではないのだ。
越前の呼気から漂う爽やかなはずの葡萄の香りがやけに生々しく感じて、身動きが取れない。


「そーは言っても、大分薄れてるし、殆ど、ていうか、全く人間と変わらないんスけどね」


日差しも十字架も平気だし。
す、と呆気なく越前は海堂から離れて、また先程のように前を向いて炭酸飲料を飲んでいる。上下に動く喉を何とも言えず眺めて、またわざとらしく咳払いをした。


「そういう冗談はやめろ」
「まあそれでもいいんスけど」
「…冗談だよな?」


飲みながら答えようとした越前は行儀悪く口の端から紫色の液体を垂らして、勿体無い、と舐めながら何でも無いように言った。


「運動後の血って、美味しくないんスよ」


乳酸とか老廃物とかで、飲めたものではない。ためになる話だな、と無理やり意識を銀河彼方まで飛ばしてしまいたかった。


「リラックスしてる寝る前がベストなんで、今度泊まり行っていいっスか?」


猫が獲物を捕らえるときのように瞳孔を黒く広げて笑う越前を見て、寝る直前までトレーニングすることを決意した海堂だった。


end

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