テキスト

□あみぐるみ
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※て に ら び時空です

つい先日サンタクロース騒動があったばかりの合宿所はクリスマスムードで盛り上がっている。そんな中、越前の誕生日がスルーされるはずもなく、まさかこんな大所帯でこの日を迎えるとは思っていなかった。
海堂はどこかそわそわしつつ、もみくちゃにされている越前を遠巻きに眺めている。
最近は何故だかよく越前と二人でいることが多かったため忘れていたが、越前は人を惹きつける。こうなることは自然のことだった。

じわりと汗で湿った紙袋の中身をどうすべきか思案する。
スーパーがあるとは言え、自由に外へ出ることは出来ない合宿所で用意できるものは限られている。鬼に頼んで毛糸と編み針を借りて作った渡せずにいるマフラーが、今はどうにも憎い。
カルピンのあみぐるみを作れば良かったのだろうか、いやそれはむしろ自分がほしい。

これはむしろ鬼へ渡して子供達に使ってもらったほうがいいのかもしれない。
辺りを見回せばすぐに目立つ赤髪が目に入った。
小走りで近寄り、声をかける。

「鬼さん、ちょっと、いいっスか」
「おお、どうした」

意外な取り合わせだったのか、一瞬空気が固まった気がする。
お互いに顔が怖いと言われるから、ケンカか何かを始めると思われたのだろうか、またすぐにざわざわと元の喧騒が戻る。

「その、借りたもので作ったんスけど…」
「ねえ」

紙袋を手渡そうとした腕を、強く掴まれる。
何事かと相手を確認すれば、元から釣り上がり気味の目尻をさらにキツくして、先程まで騒ぎの中心に居た越前がそこにいた。

「どうした」
「海堂先輩が言うの?それ、何」
「いや、これは…、鬼さんに…」
「なんで」

いつも飄々としてときに人を掌の上で遊ばせる越前が、切羽詰まったように詰め寄ってくる。
困惑していると、何かを察したような表情で鬼が越前に笑いかけた。

「安心しろ、そいつは俺が道具を貸したから律儀に報告に来たまでよ」
「…ふーん」

唇を尖らせているが越前は一応納得した様で、ほっとして、手をあげながら立ち去る鬼へ頭を下げた。

「…で?」
「なんの話だ」
「これ、なに」

未だ掴まれた腕に更に力を入れられて、苦し紛れに「あみぐるみ」と答えた。
じっとこちらの心を見透かす様に越前が下から覗き込んでくる。

「…ふーん、あみぐるみね」

ニッと口角をあげて勝気に笑う越前に、罠に捕らえられた気分になる。
居心地悪く腕を振り払うと、あっさり離れた。

「海堂先輩は知らないと思いますけど、オレ、今日誕生日なんスよ」

いきなりズバリと斬りつけられ、よろける。そうか、と乾いた唇を必死に開けて声を絞り出した。
勝利を確信したようにさらに笑みを濃くして、楽しそうに宣言される。

「ちょうどあみぐるみ、欲しかったんスよね」

ねえ、それちょうだい、と汗を吸い込んでクシャクシャになってしまった紙袋を海堂の手ごと包み込んで、長いあみぐるみ、と笑う越前に降参するしかなかった。

end

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