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□嘘からでたまこと
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桜舞い散る中、はい、と牛乳を渡された。
部活の休憩中、越前の苦手な牛乳を押し付けられるのはよくあることで、飲まないわりにこの一年間で身長が伸びた奴は得意げに笑っていた。

「毎回毎回、押し付けてくんじゃねえ」
「毎回じゃないっスよ、たまに」

その「たまに」の頻度が高いことは他でもない海堂がよく知っていた。
なおも文句を言おうとすると、唇を釣り上げて「飲まなくても伸びたし」と生意気に返してくる。それに、と続けて少しだけ恥ずかしそうに口籠る。

「家でも飲まされるし、ノルマの本数は飲んでるっス」

帽子を目深に被りなおし、目線が近くなった海堂をチラリと見てくる。

このラチがあかない押し問答にいつも折れるのは海堂だった。ダメ押しのようにしおらしい越前を見たら、Noとは言えなかった。
ストローをきゅっと刺して大人しく飲んでいると、越前がじっとその様子を見つめてくる。
落ち着かない不躾な視線に、何だよ、と小さく返す。

「…今日、エイプリルフールなんスけど」
「あ?ああ…」

朝から桃城が騒いでいたのを思い出す。たわいもない嘘にまんまと騙され、キレたのはつい先程の出来事だ。海堂相手に嘘をつく豪胆な持ち主は桃城か、目の前の越前くらいしかいない。


「その牛乳に、惚れ薬が入ってるって言ったら、どうっスか?」

ぽかん、と口を開けて、牛乳パックと越前の顔を何度も見比べる。
不敵に笑う奴の真意がまるで読めず、視線がウロウロして「動揺してます」と主張してしまっているのが悔しい。


「惚れ…」
「そう、惚れ薬」


荒唐無稽な話で、鼻で笑い飛ばせばいいものを、こいつならやりかねないという妙な信頼めいたものが邪魔をする。
しかし、わざわざエイプリルフールであることをバラしてから伝えてくるということはやはり嘘ではないのか、ぐるぐると考えが頭を回って訳が分からなくなってきた。

その様子をひとしきり見て満足したのか、嘘っスよ、とあっさり白状した。

「ていうか、そんなの用意できるわけないっス」
「いや、貴様ならツテがあってもおかしくねえ」
「なんスか、それ」

越前にしては珍しく歯を見せて笑っていて、騙されて悔しいような、許してしまってもいいような、ソワソワとしたなんとも言えない気持ちになってしまう。

しかしこのままやられたままでは気がすまない。 普段嘘をつくことがないため良案が思いつかなかったが、越前の嘘に乗っかればいいことだ。

「そもそも、惚れ薬なんてモンがなくても、てめえに惚れて…る…」

勢いで言ったは良いものの、あまりにもとんでもない発言だと気付いて語尾が小さくなってしまった。
すぐに嘘だと撤回をしたい。
引いているのか、笑っているのか、反応のない越前を恐る恐る見てみれば、そのどちらでもなくひらひらと舞う桜と同じ色に頬を染めて戸惑ったようにこちらを見つめていた。


「え…、それ、嘘?ホント?」


吸い込まれそうな瞳にうっすら涙の膜が張っていて、きっとどちらを答えても頬を伝うのだろうと予感 させた。
どうせ濡らすなら、曇ったものより歓喜の涙がいい、と思った時点で嘘ではないと海堂自身も気付いてしまった。


「嘘から出たまことってヤツだな…」
「は?だれ、まことって」


むっとして剣呑な雰囲気を纏った越前だが、帽子に2〜3枚桜の花びらが付いていてはまるで締まらない。
行儀が悪いと思いつつ、飲みかけの牛乳パックを目の前に差し出した。


「嘘か本当か飲んだらわかるんじゃねえのか」


入ってるんだろ、惚れ薬。と伝えて背中を向けた。
後ろから「にゃろう」と悔しそうな声がきこえて、肩で笑った。

end

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