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□理解不能のDesire
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あれから、一週間。
海堂の態度は、表面上はいつもとなんら変わらない。元々、親しくしていたわけではないから会話などなくても、まわりは気付かない。
ふたりの異常な関係に。
がたん、と部室に鈍い音が響く。
それは汚れきった淫行の始まりの合図だった。
「いや、だ…!」
思いきり抗えば、逃げられるはずの体格差。
それが出来ないのは。
「毎日毎日…。学習能力ないよね、アンタ。あの写真、バラまいていーの?」
「…っ、ちくしょう…!」
越前が海堂の弱みを握っているからに他ならない。
大人しくなった海堂に、優しく唇を落とす。
「イイ子っスね」
歪みに歪んだ笑顔。
その裏に激情が隠されているコトを、海堂は知らない。
アノ日から今日まで毎日、越前は海堂を犯していた。
自分のエゴを突き通すために。
そんなコトが日常と化してきた、昼下がり。
最近の越前は放課後のみならず、昼休みや授業中にも呼び出しをかけてくる。
それが億劫な海堂は、逃げても無駄だと知りつつも、見つからない様にそっと教室を抜け出していた。
(ちくしょう…何で俺がこんなマネしなきゃなんねえんだ…!)
何故そこまで越前が自分に執着するのか理由がわからない。
何度も何度もそのことを考えて、その度に答えは不鮮明なまま。
「何なんだよ…」
深い溜め息をついて、下を向きっぱなしだった目をあげる。
「…っ」
越前が居た。
しかしこちらに気付いている様子はなく、誰かと話をしている様だった。
穏やかな笑顔、で。
「……」
話をしている相手はよくわからなかった。
否、確認することも出来ずその場から走り去っていた。
雷が落ちた様な衝撃に加え、身が焼けた様にアツイ。
意味がわからない。
越前は自分にあんな笑顔を見せたコトなんてなかった。
つまりは、あの相手が特別な存在だというコトなのだろうか?
(じゃあ何で俺にあんなコト…)
そこまで考えて、海堂が辿り着いた答え。
(俺、は…ミガワリ?)
自分に恋焦がれた相手を重ねていて、だからいつもあんなに悲しそうな顔をしていたのだろうか。
今まで不鮮明だったモノがクリアになったのに、世界が暗くなっていく。
--*--*--*--*--*--
昼休みも終わり、5時限目の授業のチャイムが鳴り響く。
連鎖の様に海堂の携帯が震えた。今、いつにもまして海堂が最も会いたくない相手だった。
「…知るか」
いつまでもうるさく震える携帯の電源を切り、テニスバックの奥底にしまいこんだ。
5時限目が終わり、6時限目が始まる直前、教室に不機嫌そうな越前がやってきた。
直接海堂の席の前まで来て、腕を引っ張る。
「…何しやがんだ」
「理由がわかんないっスか?…何だったらココで大声で言ってもイイっスよ」
完全に目が据わっている。
海堂は深い深い溜め息をついて、越前になされるがまま教室を出て行った。
向かった先は、保健室。
「なっ…」
「今日は先生、出張で居ないんスよ。鍵は持ってるから安心して」
複数の鍵が付いた輪の中から簡単に目当ての鍵を探し当て、差し込む。
何でお前がそんなものを持っているんだ、という疑問は、ベッドに押し倒されて吹き飛んだ。
「ねぇ…何でさっき無視したんスか」
「…何のコトかわかんねえ」
フイ、と顔を背ける。益々越前の眉間に皺が入った。
その顔ではない。
海堂は先ほどの笑顔を思い浮かべ、比べる。
両手を伸ばし、越前の頬に触れた。
ふに、と頬を持ち上げ疑似的な笑顔を作らせようと試みる。
「…なに、誘ってんの?」
「……っ馬鹿じゃねぇの」
無理やりにでも笑顔を見たかったのに、表情に変化のない越前。
『馬鹿』は、越前に対してか、期待してしまった自分になのか。
海堂自身、よくわからなかった。
「随分な言い様だよね…」
『馬鹿』発言に気分を更に害した越前は、頬に触れたままだった手を掴みベッドに押さえ付けた。
「いつもいつも抵抗するし暴言吐くし…。今日なんて無視したよね。そんなコトしたって無駄だってわかんないスか?」
「…うるせぇ黙れ」
そんなコトこの一週間で嫌なほど身に染みている。
それでも抵抗を続けるのは、自尊心があるからだ。
「…また言った…」
わざとらしく大きな溜め息をはいて、越前は両手の拘束を解いた。
急いで体勢を整え、あわよくば逃げようとする海堂に一言告げる。
「言っとくけど…逃げたらどーなるかわかってるよね?」
冷ややかな視線で見下され、悔しさで唇を噛み締める。
その様子をみて、越前はベッドから離れて何やら保健室内の物色を始めた。
「…?」
不思議そうに見つめてくる海堂に、艶絶な笑顔を向ける。
「…何、考えてやがる」
「たのしいコト」
そのままの笑顔で戻ってきた越前の手には、包帯と氷があった。
「…まだ立場が理解出来てないアンタに、お仕置してあげるっス」
青褪める間もなく、両手を持ってきた包帯で縛られベッドのパイプに固定された。
鮮やか過ぎるその行動に、いっそ讃辞を贈りたいと一瞬思ったが、罵声を浴びせる。
「ってめ、ふざけんな!」
「そのセリフ聞き飽きたんだけど。猿轡もして欲しい?」
実に楽しそうに口許に包帯を押し当てる。
これ以上屈辱的な行為は御免被りたいので、海堂は必死に首を横に振った。
「そう?残念」
包帯の代わりに、と今度は唇を押し当ててくる。
「っや、」
海堂は、実はキスが一番苦手だった。
普段は無遠慮で海堂の身体の負担なんて考えずに無茶苦茶するくせに、キスだけはやたら優しいのだ。
絆されてしまいそうになる自分が怖い。
「〜っ、あ」
ちゅ、と唇が離され、縋る様な甘い声が出てしまった。
「…なぁに?もっとシテ欲しい?」
上擦った声が出てしまいそうなので、顔を思いっきり背けて拒否した。
「……アンタってほんと、オレの神経逆撫でるの上手だね」
先ほど持ってきた氷を滑らせるように、海堂の首筋をなぞる。
「っひぅ…」
びくんと跳ねる身体に目を細め、制服の中へ氷を滑らせる。
「冷てえ…!」
振り払いたくても、両手を固定されたままでは上手くいかない。
「海堂部長、ビクビク跳ねちゃって変なの」
底意地の悪い笑顔で、またひとつ氷を入れてくる。
「っいや、だ…!もう入れんな!」
「入れられるのが嫌なの?だったら…」
プツン、とボタンを外す。
露になっていく白い肌には、越前が付けた紅い印が散っている。
「ほら、これで『入る』とは言わないっスよ」
全部のボタンを外し終わり、得意気に笑う。
そういうコトじゃない、と言う前にまた新しく氷を押しつけられる。
「ここ熱くなっちゃってる…。冷やしてあげるっス」
いつの間にか赤く熟れた尖りを重点的に撫でられて、嫌でも身体が反応していってしまう。
「こっちも熱くなってる…。」
ズボンの膨らみをやわやわと撫で、器用にベルトとボタンを外す。
「チャックも下ろしてあげないとキツソーだね」
「っ…」
焦らす様な緩慢な動作で寛がせていく。
越前の氷で冷えた手は、下着越しでも充分に刺激があった。
ソレに目敏く気付いた越前は、笑みを濃くする。
「手。冷たくて気持ちいーデショ?」
氷を海堂の下着の中に入れ込み、そのまま握りこんだ。
「っ…!」
あまりの衝撃に、海堂は声にならない悲鳴をあげる。
しかしそれを特に気にかける様子もなく、手を上下に動かし始めた。
「海堂部長の熱いから、すーぐ氷溶けちゃうっスね。パンツびしょ濡れだから、漏らしちゃったみたいに見えません?」
お行儀悪いんだー、と羞恥に震えている海堂に笑いかける。
「…ざけんなっ」
越前はいつも海堂のプライドを打ちのめす言葉を投げ掛けてくる。
何よりも許せないのは、辱められる度に淫らがましく反応する自分の身体。
「恥ずかしいコト言われて興奮しちゃった?さっきより濡れてるっスよ?」