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□理解不能のDesire
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下着越しに、海堂のすでに勃ちあがっている先端部分を弄る。
ぐりぐりと刺激を与えると、一層染みが広がっていく。
その痴態に堪えきれず、足をよじって隠そうとした。
しかし、越前の身体が足の間にあるために上手くいかない。それどころか、まるでこれでは越前に太股を擦り付けて甘えてるようだ。

「…なぁに?おねだりでもしてるの?」

案の定、ニヤニヤしながら言われてしまった。
越前の声が子供をあやす様に甘みを含んでいて、一層気持ちが悪い。

「…ああ、そっか。お漏らししたから気持ち悪いんスよね。脱がしてあげる」

腰あげて?と当然の様に言われたが、断固拒否した。
これ以上痴態を晒して何になる。

「ほんと今日のアンタ、甘えん坊サンだね。」
「…は?」

いつもなら拒否をすると怒るのに、何故だか嬉しそうに笑っている。
こういうときの越前は、とんでもなく恐ろしい。

「ちょっと待ってて」

お前が待て、と言う前にベッドから降りまたもや保健室内を物色し始めた。
嬉々として持ってきたのは、ハサミ。
その鋭く光る刃をみて、海堂は身体を強張らせた。初めてのとき、越前に剃刀を向けられてから、刃物が怖くなったのは内緒だ。
軽い足取りでベッドに戻り、縛り付けられている海堂に跨がる。

「じゃあ、脱がしてあげるね?」

冷たいハサミの刃先が、海堂の足の付け根に当てられる。
正確には、海堂の下着に。

「ま、まて!」

まずい。それはまずい。下着を切られたら、今日の部活はどうするというのか。
短パンで下着なしは無理にも程がある。

「え〜?だって海堂部長が協力しないで甘えるから…」
「する。協力する。だから切るな。」

越前の膨れっ面が、その言葉を発した瞬間下卑た笑いに変わった。
しまった、と後悔しても遅かった。

「そっか。じゃあ協力してね」

不意に、腕の拘束が解けた。急に自由になった両手を遠慮がちにおろすと、越前が言った。

「自分で下着脱いで」

そんなコト、無理に決まっている。
自分から脱ぐ、ということは、この行為を肯定する様な気がするからだ。
無理やり脱がされて犯されるなら被害者になれる。悔しいがその方が断然マシだ。
自分は越前とのこの行為を望んでなんかいない。

目を細めて笑う越前が、戸惑う海堂に早くしろと催促する。

「早く脱がないと切っちゃうっスよ」
「…、」

シャキシャキとハサミを弄ぶ音が思考を遮っていく。
切られるのも脱ぐのも断固御免だ。
何とか言い逃れる方法はないかと考えを巡らす。

「……ぇ、越前」

軽く腰をあげ、なるべく越前を見ないように言葉を続けた。

「協力、する…から、お前が脱がせ」

みっともない格好とセリフに半分泣きそうになったが、背に腹はかえられない。
これが一番被害が少なくすむ方法だと、海堂は確信していた。

「………ふぅん。」

ジロジロと嫌な視線を感じ、唇をキツく噛み締める。

「…そんなにオレに甘えたい?」
「は…?」

勝ち誇った様に見下しながらニヤけている越前。

「でもダメっスよ。お仕置って言ったデショ。」

自分で脱ぐか、ハサミで切られるか。
その選択肢しかないと改めて突き付ける。
悔しそうに唇を噛んでいる海堂の首筋を、残っていた氷でなぞり反応を楽しんだあとに続けて言う。

「…でも、どうしてもって言うなら、…もっと可愛くおねだりしてよ」
「っ…ば、馬鹿じゃねぇのか!?」

海堂は心底思った。
こいつは自分に一体何を求めているのか。

「…自分で脱ぎたくない、切られたくない、その上逃げる術がない。そんなアンタには一番良い方法だと思いますケド?」
「…っ」

確かにすべて事実だった。
けれど越前に媚びたセリフを言うのも屈辱でしかない。

「…えち「名前で」

否定をしようと口を開くと、遮られた。

「名前で呼んで甘えて」

恍惚とした表情で、冷えた指を海堂の唇に押し当てなぞる。

「…何でだ」
「ききたい。アンタの口から」

向けられる熱を帯びた視線に思わず見惚れそうになる。
しかし、身代わりの自分に向けられているものではないと、かぶりを振って自らを落ち着かせた。

「…言いたくねぇ」
「じゃあ切るっス」

間髪をいれずハサミを下着にあてがう。

「…っわ、かった、言う。…言えばいいんだな?」

別にこいつは俺の言葉を待っているのではなく、俺を通して思い人を見ているのだから、どうということはない。
そう自分に言い聞かせて重い口を開く。

「……りょ…、ま」

脱がせて、と消え入りそうな声で続けた。
実際は唇が形取っただけで、声なんて出ていなかった。

「…ッ上出来、っス」

ヒドく興奮した様子で、下着に手を掛ける。
普段ならもっと執拗に要求してくるはずの越前が、こんな不出来で了承するとは思わず少し呆気にとられた。
越前は一気に下着を引き剥がし、身体を足の間へと割り込ませる。
お互いの勃ちあがったモノが擦れて、嫌でも海堂の身体は反応した。

「…ホント敏感だよね」

本来なら茂みがあったはずの場所へ触れ、撫でる。
海堂の先走った蜜が、触れられる度に越前の手を濡らしていく。

「こんなところまで性感帯になっちゃった?」

濡れた指を蕾に塗り付け、ゆるやかに侵入させた。
冷めた指に媚びる様に甘く吸い付き、この行為を歓迎をする肉壁に、海堂はほとほと嫌気がさす。
この行為に1ミリたりとも「愛」だとかの甘い意味合いは含まれていないというのに。
馬鹿みたいに素直に反応を返す身体に苛立ちが募る。

「…すき、な奴、居るくせに」

思いがけず口から零れた言葉に、海堂は慌てて口を塞いだ。

「…何、誰に…?」

片眉をあげて越前は尋ねる。

「…あんまり聞こえなかったんだけど。好きな…って何。」

アンタに好きなヤツが居るの?と良く熟知している海堂のよがる場所を爪で引っ掻いた。
突然の刺激に身体が跳ね、否定しようと開いた口からは嬌声が溢れる。

「ちがっ…俺、じゃなくて、てめえだっ」
「…オレ?」

やっと紡いだ言葉を聞いた越前は、ぴたりと動きを止めた。
呼吸を整え、海堂は喋る。

「その…みるつもりはなかったが、昼休みに会ってたヤツがいただろ」
「…ああ、見てたんだ」

ポーカーフェイスの越前が少しだけ表情を崩した。それだけで答えは充分だった。

「鍵、借りてたんスよ」

先程の鍵の束が脳裏によぎる。
本命相手に借りた鍵で、身代わりを抱くための場所を確保するとは、本気で悪趣味だ。

「俺はてめえが好きな奴の、み、身代わり…なんだろ、」

情けなさで視界が滲む。
越前の返答を待たずに続けた。

「だから、こんな不毛なコトは止めにして、そいつに気持ちを」
「…身代わり…、て、それ本気…?」

越前は言葉を遮り、驚いた様な呆れている様な何とも言えない複雑な顔で見つめた。

「…あぁ、そう…、そう思ってるんだ…。居るけど、ね。好きな人」
「だったら…」
「望みがないんスよね。」

だから言わない。とだけ言い放ち、止めていた行為を再開させた。
珍しくマイナス思考な越前に文句を言いたいが、それを察したのか、唇を重ねられて頭が飽和状態になってしまった。
突然の刺激に身体が跳ね、否定しようと開いた口からは嬌声が溢れる。
優しく唇を割って舌をとられる。
絡める気のない海堂に、それでも懸命に絡め一方的に嬲る形となる。

「っ…ん」

唇の端から溢れた唾液を合図に、唇を離した。
目をとろんと潤ませて離れた唇を見つめている海堂に気をよくし、たいしてほぐしていない秘肉から指を引き抜く。
ソコに雄蕊を滑らすように擦り付けると、力の入っていなかった海堂の身体が一気に強張った。

「アンタ、痛いの好きだもんね?」
「ばかっ違う、やめろ!」

抵抗も虚しく、閉ざされた秘肉に無理やり押し挿れた。

「…、っ」

それでも嬉しそうに媚びて受け入れてしまうのは、この一週間で教え込まれた結果だった。
ぎしりとベッドが軋み、腰を打ち付けられる。
息を吐く間もないほど激しい律動に呼吸がでたらめになり、次第に透明な蜜が溢れ始めた。
無茶苦茶に走ったときの様な苦しさで、確かにこれは嫌いな感覚ではないかもしれない…と瞬間思ったが、すぐに考えを追いやった。

「……さっきの、話の続き…だけど」

荒い呼吸の中で、越前がぽつりと零した。

「は、なし…?」

そういえばそうだ。
キスをされてすっかり忘れていたが、弱気なコイツに文句を言ってやるつもりだったのだ。

「…アンタになら、言えるかもね。」
「…は?」
「愛のコクハク。…身代わり、なんデショ?」

呆気にとられている海堂の耳元に唇を寄せて、
好きだ
と囁いた。
艶を含んだ声色が、耳から全身を駆け抜ける。甘い音と言葉に何か催淫効果でもあるのではないかと思うほど、身体がうち震えた。

「…耳、真っ赤。」

でもそんなアンタも可愛くて好きだよ
などと告げられ、あまりの甘言に海堂は身悶えた。

「…き、」

気色悪い、と言おうとしてまた唇が塞がれる。
合間に何度も好きと囁かれ、ただでさえ弱いこの行為に一層溺れていってしまう。
律動も激しさを増して、普段は出さない様に努めている喘ぎが抑えきれず、絶え間なく溢れる。
透明な蜜が際限なく溢れて海堂の腹部を汚していく。
快感に溺れそうな自分をどうにかしようと越前の背中を必死に爪を立ててかき抱いた。
いくら短く切り揃えられていても、力を込めればそれなりに痛みは走るのか、越前は一瞬眉を顰めた。

「…アンタがオレに痕付けるの、はじめてっスね」

しかし嬉しそうに瞳を細める。そこに揶揄の意図は含まれていなかった。
海堂は益々困惑した。
先ほど廊下で見掛けた笑顔よりずっと綺麗で、優しげなその表情。
そんな顔をされたら、勘違いをしてしまいそうになる。

「そ、の顔…、やめろ」
「なにそれ?顔はどうしようもないでしょ。変なの。」

柔らかい笑顔で尚も口付けられる。
これでは、まるで。

(コイビト、みてえじゃねえか)

その甘い考えに、身体が疼く。
知らず抽挿を繰り返す越前を締め付けた。

「…っ、どうかした?」
「お前が、悪い…」

好きでもないくせに優しくされたら、思い上がってしまう。
ただの身代わりだと冷たくあしらわれたら、どんなに楽か。

「お前なんか、嫌いだ…」
「…改めて言わなくても知ってるっスよ」
「ずるい…だろ」

さも傷付いた様な表情を見せるなど。
そんな越前を見ていられなくて顔を逸した。
するとまたもや耳元に唇を寄せて「好き、愛してる、可愛い」などと甘い言葉を囁き始める。声変わりし始めた少し低くて掠れた声色で囁かれると、嫌でも背筋がぞくぞくしてしまう。
耳を塞ぎたくてもいつの間にか両手を押さえ付けられて叶わない。
身動ぎする海堂に追い討ちをかけるように、吐息混じりの囁き。

「好き、だよ。薫」
「っ…」

唐突に名前を呼ばれて身体に火がついたように熱くなり、そのまま果てた。
海堂の鍛えられた腹筋に白濁がかかる。

「…名前呼ばれて、感じちゃった?」

酷く上擦った声で何度も名前を呼ばれる。その度に身体を震わせ、果てる。
軽く唇を重ねられるが、それすらも今は激しい愛撫に変わってしまう。
唇が離れたさいに、途切れ途切れに疑問を尋ねる。

「お、前…の」
「…何?」
「好きな、奴も、薫って言うのか…?」

また呆れたような複雑な表情で海堂を見つめる。

「…そうっスよ。すっごい鈍感で可愛い人なんスけどね。」

何か言おうとした海堂の唇を奪って、抱き締めた。







(初めて越前にこの行為を迫られたとき、殺したくなった。)
(それ以上に、ただの身代わりだったことが悲しかった。)
(それに。)


それに、
お前の身体を。
お前の声を。
抱き締めてくれたこの手の温もりを感じてしまったから。


呼んで欲しいけど、呼ばれたくない。
同じ名前でも、俺はあいつにとって身代わりでしかない。
あいつの言う『薫』が、羨ましい


理解不能のDesire
イコール
お前に、愛されたい。
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