テキスト

□ゆびきり
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1年に1度、行くかどうかという曖昧な頻度で越前家はふらりと日本に帰る。
その滞在時間もまた曖昧で、2〜3日のときもあれば1か月という長期もあった。


日本へ来たリョーマは愛用の帽子とオーバーオールを身に纏い、ラケットを持って公園を目指した。
というのも、コート付きの知り合いの家は借りられないとかどうとか南次郎が言っていたからである。しかもその南次郎が挨拶だとかなんだでリョーマに構えないという。
テニスが出来ないと理解したリョーマはぐずった。
こうなってくると面倒なので、南次郎が公園で壁打ちでもしていろと提案をすると渋々了承した。


公園に着くと誰も居らず、貸し切り状態だった。
早速ポケットからボールを取り出し、小さな身体に不釣り合いな大きなラケットを構える。
ぽよん、と地面にひとつきして、さあ打つぞというそのとき。
どこからともなく子供のすすり泣く声がきこえた。
あたりを見回しても誰も居ない。
怖くなったが、気のせいだと頭を左右に振ってもう1度ボールを跳ねさせる。


「ひっ…く」


今度は確かにはっきりときこえた。
恐る恐る声のする方へ歩みよる。
どうやらトンネルの形をした遊具の中からきこえているようだ。
意を決してゆっくり覗きこむと、まずすらりとした足が目に入る。


(よかった、ユーレイじゃない)


ほっとして全身へ目をやると、まるで絵本の中のお姫様のようなふわふわしたワンピースを着た華奢な女の子。
短い黒髪に泣いて赤くなった釣り気味の目。
リョーマは瞬間的に顔が赤くなったのを感じた。


「おねえちゃん、なんで泣いてるの?」


泣き顔より笑顔をみてみたい。
リョーマは少ない日本語のボキャブラリーの中から言葉を選んで、必死に話し掛ける。


「ねぇ、笑ってよ」
「うるさい、どっかいけ」


ふい、と顔を背けられてリョーマは酷く傷付く。
せっかくたどたどしい日本語でも話し掛けたのに、真っ向から切り捨てられたらどうしたらいいかわからなくなってしまう。


「っな、なんでお前が泣くんだよ」
「ないて、ないもんっ」


そうは言っても大きな瞳に涙の膜がはっている。
少女はポケットからハンカチを取り出してリョーマの目元を拭った。
スイッチが入ったのか、ぽろぽろ大粒の涙が溢れ出した。


「…わ、わるかったから、もう泣くなよ」
「…っうん」
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