テキスト
□ゆびきり
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ようやく落ち着いたリョーマは、改めてまじまじと少女をみる。
やはり目につくのはふわっとしたワンピース。
リョーマの短い人生の中で、この様な服を着るのはお姫様と決まっていた。
「おねえちゃんは、お姫さまなんだね。名前は?」
「…おれは、」
少女はばつが悪そうに口を開くが、驚いたリョーマに遮られる。
「おんなのこはおれってゆっちゃいけないんだよっ」
「おんな…にみえるのか?」
「?お姫さまはおんなのこだよ」
まるで噛み合わない会話に少女は眉を寄せる。
そうじゃない、と告げるが、すっかりお姫様と思い込んで興奮しているリョーマの耳に届くはずもなかった。
深い溜め息をついた少女は諦めた様に名を名乗った。
「…かおる。」
「かおるちゃん?オレ、りょおま、て言うんだよ」
そうか、と少女もとい薫は立ち上がってリョーマの隣りを通り過ぎる。
「えっどこ行くの!」
「帰る。」
スタスタと歩を進める薫を慌てて追いかける。
折角出会えたというのに。
とにかく引き止めようと思索するが、日本語のボキャブラリーなど殆ど皆無なリョーマにはこれしか言えなかった。
「て、テニス好き!?」
リョーマはもっと日本語を覚えておけば良かった…と心底思った。
それと女の子の興味のあるものを。
お姫様がテニスをするはずがない。
しかし返ってきた反応は意外にも好感触だった。
「…てにす?面白いのか?」
「こ、これでこう…」
実際に壁打ちをしてみせると、薫の瞳がキラキラし始めた。
道具を貸すと早速薫は取り掛かる。
興味があるらしい。
「…こうか?」
「ちがうよ、こう」
棒立ち状態で打とうとする薫に、後ろからくっついて指導する。
少し薫の身体が強張ったが、リョーマは気付かなかった。
「もうちょっと、足まげて」
「…ま、まて、ちょっとはなれろ」
「え?」
みると薫の耳は真っ赤に染まっていた。
熱でもあるのかと慌てて額と額をくっつける。
「かおるちゃんあついよ!ねつあるの?」
「…な、なんでもない!いいからはなれろ!」
疑問符が飛んでいるリョーマを無理矢理引き離し、真っ赤な顔を手す。