テキスト

□ゆびきり
2ページ/3ページ

ようやく落ち着いたリョーマは、改めてまじまじと少女をみる。
やはり目につくのはふわっとしたワンピース。
リョーマの短い人生の中で、この様な服を着るのはお姫様と決まっていた。


「おねえちゃんは、お姫さまなんだね。名前は?」
「…おれは、」


少女はばつが悪そうに口を開くが、驚いたリョーマに遮られる。


「おんなのこはおれってゆっちゃいけないんだよっ」
「おんな…にみえるのか?」
「?お姫さまはおんなのこだよ」


まるで噛み合わない会話に少女は眉を寄せる。
そうじゃない、と告げるが、すっかりお姫様と思い込んで興奮しているリョーマの耳に届くはずもなかった。
深い溜め息をついた少女は諦めた様に名を名乗った。


「…かおる。」
「かおるちゃん?オレ、りょおま、て言うんだよ」


そうか、と少女もとい薫は立ち上がってリョーマの隣りを通り過ぎる。


「えっどこ行くの!」
「帰る。」


スタスタと歩を進める薫を慌てて追いかける。
折角出会えたというのに。
とにかく引き止めようと思索するが、日本語のボキャブラリーなど殆ど皆無なリョーマにはこれしか言えなかった。


「て、テニス好き!?」


リョーマはもっと日本語を覚えておけば良かった…と心底思った。
それと女の子の興味のあるものを。
お姫様がテニスをするはずがない。
しかし返ってきた反応は意外にも好感触だった。


「…てにす?面白いのか?」
「こ、これでこう…」


実際に壁打ちをしてみせると、薫の瞳がキラキラし始めた。
道具を貸すと早速薫は取り掛かる。
興味があるらしい。


「…こうか?」
「ちがうよ、こう」


棒立ち状態で打とうとする薫に、後ろからくっついて指導する。
少し薫の身体が強張ったが、リョーマは気付かなかった。


「もうちょっと、足まげて」
「…ま、まて、ちょっとはなれろ」
「え?」


みると薫の耳は真っ赤に染まっていた。
熱でもあるのかと慌てて額と額をくっつける。


「かおるちゃんあついよ!ねつあるの?」
「…な、なんでもない!いいからはなれろ!」


疑問符が飛んでいるリョーマを無理矢理引き離し、真っ赤な顔を手す。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ